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年度 2009年

設問番号 第2問

テーマ 豊臣秀吉の天下統一/近世


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設問A
問われているのは,豊臣秀吉が(a)戦乱の原因をどのようにとらえたか,(b)その解決のためにどのような方針でのぞんだか。

教科書レベルの知識として,豊臣秀吉が惣無事令を出し,各地の戦国大名に対して停戦を命じると共に領国の確定を豊臣政権の裁定にまかせようとしたことは知っているはず。この知識だけに基づいて答案を書くことも可能だが,資料文が示されている以上,それに即して考えるのが筋である。

というわけで,まず(a)から。惣無事令に関連するのは資料文(1)〜(3)。
資料文(1):豊臣政権の命令
○「敵も味方も戦いをやめよ」
○「国や郡の境目争いについては,双方の言い分を聴取して,追って決定する」
 :この2つは,惣無事令の内容についての一般的な知識とそのまま対応する。
○「もしこれに応じなければ,直ちに成敗するであろう」
資料文(2):島津氏の対応
○「それなりの防戦をせざるを得ない」との回答=豊臣政権による停戦命令の事実上の拒否
資料文(3):豊臣政権の対応
○「島津氏は秀吉の攻撃を受けた」=惣無事令に違反した戦国大名を武力で討伐(資料文(1)の3つめの内容に対応)

続いて(b)について。
惣無事令が,喧嘩両成敗と同じく,中世において紛争解決手段のひとつとして慣習的に認められていた私闘,言い換えれば,相互の紛争を自分たちの実力による私闘で解決すること,を禁止するものであったことは,これまた教科書レベルの知識。
ここから,戦乱の原因を「相互の紛争を自分たちの実力による私闘で解決すること」にあるととらえていたと判断できる。
そして,紛争を自力による私闘で解決することが戦乱(資料文(1)の「戦い」)の原因であることは,資料文(2)の島津氏の「境を接する大友氏から攻撃を受けているので,それなりの防戦をせざるを得ない」という回答からも分かる。

設問B
問われているのは,豊臣秀吉が自身の命令を正当化するために用いた(a)地位,(b)論理。

教科書レベルの知識でいえば,豊臣秀吉は関白に就任し,天皇から日本全国の支配権をゆだねられたと称して惣無事令を出している。この知識だけでも答案は書けるが,これもやはり,資料文に即して考えていくのがベスト。資料文中で,その内容に関連するのは,下記のことがら。
資料文(1)の「勅命に基づいて書き送る」
資料文(2)の「関白殿から戦いをやめるように言われた」
ここから,(a)については「関白」で問題ないが,(b)については「勅命に基づいて」との記述を活用したい。

設問C
問われているのは,豊臣秀吉が諸大名を従えた方法。
なお,設問文では「秀吉による全国統一には,鎌倉幕府以来の武士社会における結合の原理に基づく面がある」と説明されており,ここに注目すればよい。

「鎌倉幕府以来の武士社会における結合の原理」とは,御恩と奉公による主従制原理(主従関係)である。ここから,答案は「(御恩と奉公による)主従制原理に基づき,……(諸大名を)従えた。」という構成をとればよいことが分かる。あとは,「……」の部分に御恩と奉公の内容を具体的に説明するだけでよい。

まず,御恩について。
資料文(3)
「秀吉は島津氏に薩摩国・大隅国などを,毛利氏に安芸国・備後国・石見国などを,それぞれ領地として与えた」→御恩=領地の給付・保障
なお,毛利氏は「早くから秀吉に協力」しているものの,島津氏は秀吉の攻撃を受けて降伏したにもかかわらず領地の給付を受けている。ここから,軍功に応じて御恩を給付したのではないことがわかる。

資料文(4)
「島津氏も毛利氏も,与えられた領地に応じた軍勢を出すように命じられた」→奉公=領地(の石高)に応じた軍事動員への従事(軍役)


(解答例)
A戦乱の原因は大名が境目争いを自らの武力で解決しようとすることにあるととらえ,自力による解決を停止させた上で,秀吉の裁定に従わせ,停戦に応じない場合は武力で討伐する方針でのぞんだ。(90字)
B関白に就任し,天皇の意思を奉じた命令という形式を用いた。(29字)
(別解)関白に就任し,天皇から全国の支配権をゆだねられたと称した。(30字)
C秀吉は御恩と奉公による主従制原理に基づき,一定の領地を給付・保障すると共にそれに応じた軍事動員に従事させ,臣従させた。(60字)

なお,Bについては,初め「関白に就任し,天皇の意思を奉じた命令であるように装った。」という解答例を作成したのですが,yjisanさんから,関白秀吉が天皇の意思を奉ずること自体は正当な権限行使なので,「装う」という,辞書的には「実際はそうではないのに,いかにもそうであるかのように見せかける」との意味をもつ表現を使うことは適当ではない,誤解が生じる,とのアドバイスをいただき,上記のように修正しました。