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年度 2010年

設問番号 第3問

テーマ 江戸初期の院内銀山と米市場/近世


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問われているのは,山師と精錬を行う職人の出身地にそれぞれ「上記のような」特徴がみられた理由。

まず「上記のような」を確定しよう。山師・精錬を行う職人の出身地について書かれているのは資料文(2)である。
 山師の出身地:大坂・京都を含む畿内,北陸,中国地方の割合が高い。  精錬を行う職人の出身地:石見国など中国地方の出身者が多い。

次に考えるのは,山師,精錬を行う職人には「何が求められる」のか。そして,畿内,北陸,中国地方などはどのような特徴をもつのか。
こうしたことを考える際に「山師」とは何かを知らずとも全く問題ないし,知っている必要もない。資料文(2)に「藩に運上を納めて鉱山経営を請け負った山師」と説明されている点を手がかりにすれば十分である。なにしろ,そこに,山師とは「藩に運上を納めて鉱山経営を請け負った」人びとである,と説明されているのだから。

山師(「藩に運上を納めて鉱山経営を請け負った」人びと)に求められるもの:
 運上を納めることから資本力,経営を請け負うことから経営能力を持っている(職人を集めてくることも含め),という二点は不可欠。
精錬を行う職人に求められるもの:
 資料文(2)では「鉱石の運搬などの単純労働に従事した者」と区別されている。その点を意識すれば,精錬とは「単純労働」ではない,つまり知識・経験・技能を要する熟練労働であることがわかる。したがって,精錬を行う職人には,精錬という作業への熟練,精錬という技術の習得が求められていた,と考えられる。

こうした点を念頭におきながら,畿内,北陸,中国地方がどのような地域なのか,推論していこう。
 大坂・京都を含む畿内:廻船業などで資本を蓄えた豪商がいる。
 北陸地方:日本海海運に注目すれば,廻船業で資本を蓄えた豪商が存在したことを推察できる。
 中国地方:石見国や但馬国には既存の銀山が存在する(石見大森銀山・但馬生野銀山)。つまり,既存の銀山で経営を請け負う山師が既にいる。
最後に,これらのデータを総合して答案を作成すればよい。


問われているのは,秋田藩にとって,人口の多い都市を領内にもつことの利点。

教科書レベルの知識としてはないはずなので,資料文から参考になりそうなデータを抽出してこよう。
資料文(1):
 院内銀山の鉱山町は,城下町(久保田)に並ぶ人口をもつ
 →それなりの規模をもつ消費市場
資料文(3):
 鉱山町では,藩が領内の相場より高い価格で独占的に年貢米を販売
 →自藩による価格調整(価格統制)が行えている
資料文(4):
 「当時」,藩が上方で年貢米を売り払うには積替えの手間がかかり,費用もかさんだ
 →上方への廻米はコストが高い

以上を総合すれば答案はできあがりそうだが,注意したい点は2点である。
まず,なぜ年貢米の販売が必要なのか。
幕藩領主が経済基盤とする年貢は,石高制のもと,米納を原則としていたこと,そして兵農分離のもと,都市(城下町)での消費生活のため貨幣の入手が不可欠であったこと,を背景としている。
次に,資料文(4)の「当時」という限定はどういう意味をもつのか。
「当時」とは「17世紀前半」であり,まだ西廻り航路が整備されていないことは,教科書レベルの知識から判断できる。つまり,秋田方面から大坂までを直接結ぶ航路(海運)がまだ整っておらず,それゆえに「輸送に水路と陸路を併用」しており,コストがかかっていたのである。
これら2点もできる限り答案のなかに反映したいが,ネックは字数である。そこで,問題における時期設定を重視し,第2点目を書き込んでおけばよい。


(解答例)
A資本力と経営能力とが求められた山師には,廻船業や既存の鉱山業が発達した畿内・北陸・中国地方の豪商が多く,精錬技術への熟練を必要とした職人は,銀山の多い中国地方の出身者が多かった。(90字)
B西廻り航路が未整備な当時,上方への廻米より低コストで年貢米換金市場を確保できるうえ,自藩による価格調節が可能であった。(60字)