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年度 2012年

設問番号 第4問

テーマ 中国・ソ連からの日本人の復員・引揚げ/近現代


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第二次世界大戦の終結にともなう復員と引揚げを素材として,明治後期から昭和戦後期にいたる対外関係を問うた出題である。

A 問われているのは,表に見るように多数の一般邦人が中国に在住するようになっていた,20世紀初頭以降の歴史的背景。

まず,場所を確認したい。
表には,「中国東北地方」と「東北地方以外の中国と香港」の2つが挙げられている。
そのうえ,資料文(1)には「日本の占領地や植民地など」と記されており,「中国東北地方」と「東北地方以外の中国と香港」が「日本の占領地や植民地など」であることが分かる。

次に,「一般邦人」がどのような人々を含むのかを確認しよう。
表ならびに資料文(1)では,「軍人・軍属」と「一般邦人」が並記されている(「軍属」との表現が分からないかもしれないが,「軍人」と同じく「復員」との表現が用いられている点に注目し,「軍人」に準じる人々だと判断しておけばよい)。ここから,「一般邦人」とは「軍人・軍属」以外の日本人である,と分かる。具体的には,「占領地や植民地など」の統治機関に勤務する官僚,中国に進出・設立された日本企業に勤務する人々,彼らの家族,そして中国に移住した人々などが含まれる,とも判断できる。

ここまでの事柄を念頭におけば,20世紀初頭以降,日本が中国にどのような経緯で「占領地や植民地など」を獲得していったのかを整理し,字数内に収めればよい,と判断できる。
ところで,「など」とは具体的に何だろうか? 市場(商品を輸出する市場や投資市場)を想定することができる。

以下,便宜的に10年ごとに区切ってデータを確認しておく。
<1900年代>
◎日露戦争→南満州に権益を獲得
 ○旅順・大連=租借地  →旅順は軍港,大連は商港
              関東都督府,のち関東庁という統治機関が置かれる
 ○南満州鉄道と付属の利権→南満州鉄道株式会社が設立され,経営される
◎日清戦争以降
 ○綿糸の中国輸出が増加
<1910年代>
◎第一次世界大戦→中国で権益を拡大
 ○南満州権益の延長と拡大を実現
 ○山東省ドイツ権益を継承
◎中国市場への輸出
 ○大戦中=ヨーロッパ諸国が後退→綿織物などの輸出が増大
<1920年代>
◎中国市場への進出
 ○商品輸出だけでなく資本輸出が拡大=在華紡など
  →上海や青島に居留民が増加
<1930年代>
◎満州事変→満州全域を実質的な支配下におく
 ○満州国=日本から官僚が赴任し実権を握る
 ○重工業建設の進展=日産など日本企業が進出
 ○満州移民政策=満蒙開拓団として農業移民が入植
◎日中戦争
 ○占領地が中国本土へ拡大

以上をまとめればよいのだが,字数は4行(120字)しかない。いかにコンパクトにまとめきるかがポイント。


問われているのは,ソ連からの日本人の帰還が(2)のような経過をたどった理由。条件として,当時の国際社会の状況に着目することが求められている。

まず,「(2)のような経過」を確認しよう。
① ソ連政府は1950年に「日本人捕虜の送還を完了した」と宣言し,日本人の送還を中断した。
 →1950年,ソ連からの帰還が中断
② 日ソ両国の赤十字社の交渉を通じて1953年から帰還が再開されたが,日本側の要望通りには進展しなかった。
 →1953年,ソ連からの帰還がとりあえず再開
③ ほとんどの日本人の帰還が実現したのは1956年のことであった。
 →1956年,ソ連からの帰還がほぼ実現

続いて,「当時」,つまり,それぞれの年における,日ソ関係に影響を与えるような「国際社会の状況」を確認しよう。
①1950年は朝鮮戦争勃発の年である。
前年(1949),中国内戦での中国共産党の勝利をもとに中華人民共和国が成立するという状況のもと,北朝鮮軍が朝鮮半島の統一をめざし,北緯38度線をこえて南へ侵攻したことから朝鮮戦争が勃発した。アメリカの実質的な単独占領下にあった日本とソ連との関係が悪化する事態が発生したのである。
②1953年は板門店で朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた年である。
朝鮮戦争の休戦により東アジアでは緊張が緩和に向かう。日ソ関係も改善へ向けたきざしが見えはじめた時期である。
③1956年は日ソ共同宣言が発表された年である。
日本では鳩山一郎内閣が対米自主外交を掲げ,ソ連ではフルシチョフがスターリン批判を行い,平和共存を積極的に唱える,という状況のもと,日ソ共同宣言によって日本とソ連の国交正常化が実現した。

字数が2行(60字)しかないので,以上の「国際社会の状況」を中心としながら経過を説明していけばよい。


(解答例)
A日露戦争により南満州,第一次世界大戦では山東省に権益を獲得したうえ,資本主義の発達とともに商品や資本の輸出が拡大し,企業進出が進んだ。さらに,満州事変により満州全域,日中戦争で中国本土へと占領地が広がり,満州農業移民など移住者が増加した。(120字)
Bソ連からの帰還は朝鮮戦争の勃発により中断したが,休戦協定の調印により再開し,ソ連との国交正常化が実現してほぼ完了した。(60字)