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年度 2016年

設問番号 第2問

テーマ 惣村/中世


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問われているのは,惣村が灌漑用水の利用による生産の安定をはかるためにとった行動。条件として,近隣惣村との関係に留意することが求められている。

惣村がどのような性格をもった集団であり,どのような行動をとったのかについての一般的な知識は,「近隣惣村との関係に留意」との条件を念頭においたとしても,領主や近隣の村々との交渉主体であった点くらいしか活用できそうにない。とはいえ,近隣の村々との関係については,境界などをめぐる紛争に対応し,あるいは,近隣の村々からの支援の要請に応じるなどの行動をとった,という一般的な知識しかないだろう(『日本史の論点』トピック17論点2)。したがって,資料文に即して考えていくしかない。
その際,問題では「東寺領上久世荘をはじめ,領主を異にする小規模な荘園が多く分布し,それぞれがひとつの惣村としてまとまりをもっていた」と説明されているので,資料文中の荘園,あるいは荘園の沙汰人・百姓らについての説明は,すべて惣村の行動についての説明であると判断すればよい。

資料文⑴
○十一カ郷用水や五カ荘用水などの灌漑用水 ……(ア)
資料文⑵
○洪水の被害:惣村が用水路修復の費用の援助を東寺=荘園領主に要求 ……(イ)
(問題文に上久世荘が東寺領であることが説明されている)
資料文⑶
○上久世荘など5つの荘園が五カ荘用水を利用 ……(ウ)

○旱魃の影響:用水取入れ口の位置(用水の確保)をめぐり五カ荘が石清水八幡宮領西荘と争う ……(エ)
 →室町幕府に裁定を求める ……(オ)
資料文⑷
○西荘…近隣惣村に協力を要請して五カ荘の用水取入れ口を破壊 ……(カ)

○五カ荘…近隣惣村の協力を得て阻止 →西荘側と五カ荘側とで合戦 ……(キ)
資料文⑸
○五カ荘と西荘の争い…幕府の法廷で争う ……(ク)
 →近隣惣村の仲裁により決着 ……(ケ)

設問では「灌漑用水の利用」とあるが,灌漑用水を利用するためには,桂川に用水取入れ口を設け,用水路を開削・維持することが不可欠である。まず,その点から考えよう。
(ア)や(ウ)から,領主を異にする複数の荘園=惣村が沙汰人(地侍層)を中心としてまとまって連合し,そうした連合体がそれぞれ用水路を開削・利用していたことがわかる。
とはいえ,惣村だけの独力で用水路を維持しているのではなく,(イ)から,荘園領主にも費用の分担を求めていたことがわかる。

次に,資料文⑶~⑸で紹介されている,1494年に端を発する相論について。これは,五カ荘が新しく用水取入れ口を設けたことから始まった相論である。
用水路の利用を確保するため,(オ)や(ク)のように,室町幕府に裁定を求めている。つまり,灌漑用水を利用する権利を正当化する由緒を獲得しようとした,と言える。
とはいえ,幕府の裁定だけで相論が解決するわけではなかったことが(キ)からわかる。やはり自力救済である。そして,(カ)や(キ)から,近隣惣村の協力(合力)を得て解決をはかろうとしていることがわかるし,近隣惣村の仲裁によって初めて決着したことが(ケ)からわかる。つまり,広く地域社会の協力・合意のもとで灌漑用水の利用が確保された,と言える。

なお,この問題で取り上げられている相論の経緯については,京都府立総合資料館・東寺百合文書WEB「百合百話51.水を求めて in 桂川 その1」(2016.3.9)で絵図を使いながら解説されています。


(解答例)
灌漑用水は,領主を異にする惣村が複数まとまって連合し協力して取入れ口を設けて確保し,維持・修復の費用は荘園領主にも分担を求めた。灌漑用水の利用をめぐり近隣惣村と争いが生じると,室町幕府に裁定を求めて由緒の確保をめざすとともに,自力救済をはかり,近隣惣村の協力や仲裁を調達して灌漑用水の利用を確保した。(150字)


【添削例】

≪最初の答案≫

複数の惣村が主要な用水路に個々に取り入れ口を設け潅漑用水を確保し,用水路修復の際にはその費用の援助を領主に要求した。用水の取り入れ口をめぐって他の惣村と争いが起きると沙汰人が幕府に裁定を求めたり,近隣惣村の協力を得て武力行使に出たりしたが,結着がつかず,近隣惣村の沙汰人らの仲介で解決した。

「複数の惣村が‥‥個々に取り入れ口を設けて灌漑用水を確保」
と書いていますが、資料文⑶には「五カ荘用水を利用する上久世荘など5つの荘園(五カ荘)」とあります。
惣村がそれぞれ個々に取り入れ口を設けたと判断した根拠はなんでしょうか?

また、「主要な用水路に個々に取り入れ口を設け‥‥用水の取り入れ口をめぐって他の惣村と争いが起き」たのではなく、同じく資料文⑶に「桂川の用水取入れ口の位置をめぐって」とあるように、取り入れ口は桂川に設けられていたのではありませんか?

それと関連しますが、武力行使に際して「近隣惣村の協力」が成立した背景についても考えたかった。

≪書き直し≫

複数の惣村が共通の用水路から協力的に灌漑用水を取り入れ,用水路修復の際は費用援助を荘園領主に求めた。用水の取り入れ方をめぐり他惣村と争いが生じると室町幕府に裁定を求めたり,連帯意識の強さや自力解決の意識から近隣惣村の協力を得て武力行使に出たり,結着がつかない場合は,近隣惣村の沙汰人の仲介で解決した。

> 前回提出時の質問に回答します。
> 惣村がここに取り入れ口を設けたと判断したのは、(1)から各惣村が各水路を管理していたと勘違いしていました。「協力的に」と訂正しました。 > 「取り入れ口をめぐって」の部分は「取り入れ方をめぐって」が正しいと思い訂正しました。最後に、「近隣惣村の協力」が成立した背景は、連帯意識、自力解決の意識の強さからだと判断しました。

「用水路修復の際は費用援助を荘園領主に求めた。」の箇所ですが, この問題で取り上げられているケースでは惣村ごとに荘園領主が異なりますので,「個々の荘園領主に求めた」と表現するほうが適切です。

「連帯意識の強さや自力解決の意識から」と考えた点は評価できます。
ただ,この問題では具体的に取り上げられていませんが,事案によっては提携・対抗の関係が入れ替わるケースがありますので,「連帯意識の強さ」にまで言及するのは危ういです。

この2点だけですが,全体として問題ありませんのでOKです。