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年度 2017年

設問番号 第3問

テーマ 百姓の家における相続と女性の地位/近世


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問われているのは,S村では家の相続者がどのように決められていたか。
「S村では」と対象が限定されており,資料文から抽出できたデータだけで考えていけばよい。

相続者について書かれているのは,資料文⑵,⑶である。
資料文⑵
◦前当主の長男が過半を占める …a
◦次男・弟 …b
◦母・妻(後家) …c
◦養子 …d
資料文⑶
◦女性が選ばれるケース
 家族内に男性がいないとき …e
 男子がいても,若年な場合,問題を起こした場合,村を出て行った場合など …f
◦女性の相続=その後,婿や養子などの男性に家督を譲る …g

まず,資料文⑶から,相続者には女性よりも男性が優先されていたと推論できる。
次に,aから,男性のなかでも長男が優先的に相続者に選ばれていたと推論でき,それに次ぐ候補者として次男や前当主の弟,養子がいたと考えることができる。このうち,bの次男と前当主の弟は,血縁関係の近い男性(男子)とまとめて表現することができる。
では,女性はどのような場合に選ばれたのか。eとfに具体的な事例が列挙されているが,これをそのまま答案のなかに書き写すことは字数からいって無理なので,まとめたい。相続者となるのにふさわしい(適切な)男性がいない場合,などと表現しておけばよいだろう。


問われているのは,村と家において女性がどのように位置づけられていたか。条件として,資料文⑷で当主の名前の書かれ方が男女で違ったことをふまえることが求められている。
設問Aとは違って「S村では」と限定されていないものの,条件で述べられている内容を念頭におけば,資料文で紹介されている「S村」に限定して考えていけばよいと判断できる。また,家のなかでの女性の位置づけが問われているものの,資料文は全て「家の相続」に関する内容なので,そこに焦点を絞って考えればよい。

まず,家を相続することがどういうことかを確認しよう。それは資料文⑴で述べられている。
資料文⑴
◦家の相続=家業と財産を代々継承すること …ア
◦当主(家の相続者)=家を代表 …イ
 →年貢や諸役をつとめる,村の運営に参加する …ウ

ウについて。
年貢や諸役をつとめることと,村の運営に参加することは,別のことがらではあるが,江戸時代には村請制が採用され,年貢や諸役は村でまとめて納入されるシステムになっていたことを念頭におけば,両者ともに村の正規な構成員であることを示す行為として共通性をもつことに気づくだろう。つまり,家の相続者は家を代表する(イ)とともに,村の構成員として正規な資格をもつ存在(ウ)だったのである。

次に,当主の名前の書かれ方が男女でどのように違ったのか,資料文⑷で確認しよう。
◦男性の場合
 家名として代々同じ名前を継ぐことが多い …エ
◦女性の場合
 宗門人別改帳(家ごとの構成員を示す)…亡夫の名前を肩書きに付けて記された …オ
 村の取決めや年貢などの書類…家名で書かれた …カ

共通しているのがエとカであり,村との関係においては男性も女性も家名で書かれたこと,つまり,村の書類上では家を代表する存在として扱われたことである。(ただし,S村の場合,女性当主が男性と同じように村の運営に参加できたのかどうかは,資料文からは判断できない。)ちなみ,エにあるように,家名には男性の通り名が用いられることが多いということは,家を相続し代表するのは(「性」ではなく)「ジェンダー」としての男性であるということであり,家名(つまり村において家を代表するもの=村の正規の構成員)は「ジェンダー」としての男性性を帯びている,ということである。
ところが,家ごとの構成員を示す場合,女性が家を相続したとしても家名で記されることはなった(オ)。この点で男性と異なっており,女性は男性(前当主)との関係においてのみ記されていた。つまり,男性と同等に家名を継ぐ存在としては扱われず,家業と財産を継承する正式な資格をもつ存在とは位置づけられていなかった,と言える。
なお,山川『詳説日本史』では,本文に「石高が決定され,検地帳に登録された高請地としての田・畑や家屋敷をもち,年貢・諸役をつとめ,村政に参加する本百姓(石高持の戸主で男性)が村の正規の構成員であった。」と説明したうえで,脚注で「百姓の家で未亡人(後家)になると,女性が戸主に準ずることもあった。」と説明してある。

では,家の相続者としては女性はどのような位置づけを受けていたのか。それを説明しているのが資料文⑶である(再録しておく)。
資料文⑶
◦女性が選ばれるケース
 家族内に男性がいないとき
 男子がいても,若年な場合,問題を起こした場合,村を出て行った場合など
◦女性の相続=その後,婿や養子などの男性に家督を譲る
つまり,適切な男性の相続者を迎えるまでの中継ぎと位置づけられていたのである。


(解答例)
A男性が優先された。なかでも長男が優先され,次に血縁関係の近い男性や養子,適切な男性がいない場合に限って女性が選ばれた。(60字)
B女性は家では男性より下位の存在と扱われ,家を相続しても適切な男性相続者を迎えるまでの中継ぎと位置づけられた。しかし相続した場合,村の書類上,村を構成する正規な家の代表と扱われた。
(別解)B女性は家では男性と同等な存在と扱われず,家を相続しても適切な男性相続者を迎えるまでの中継ぎと位置づけられた。しかし相続した場合,村の書類上,村を構成する正規な家の代表と扱われた。(90字)
(別解)B村で家を代表する家名には多くは男性の通り名が用いられ,女性が当主でも変わらなかった。家では女性は男性より下位に扱われ,家を相続しても適切な男性相続者を迎えるまでの中継ぎとされた。


【添削例】

≪最初の答案≫

A原則としては男性が長男から優先的に相続者に選ばれ,男性がいない場合や,相続者に不適切な場合は女性が相続者に選ばれた。

B女性は,村においては相続の書類上では家長として認められたがその他においては認められなかった。家においては男性より下位に位置付けられ,相続を途切らせないためのつなぎ役とされた。

AはOKです。

Bについて。
「相続の書類上では」とは何を指すのでしょうか?
「その他において認められなかった」との評価は,資料文のどこを根拠としたのでしょうか?

答案を書き直す際,この2点についての返答も必ず含めてください。

≪書き直し≫

B女性は,村においては書類上では正規の家督相続者とされたが,家においては男性よりも下位に位置付けられ,適格な相続者が現れるまでの代理のつなぎ役と扱われた。

> 質問の返答です。
> 「相続の書類上では」の方は、資料文(4)の宗門人別改帳の記載に妻の名前が付されたという記述から判断しました。
> 「その他において認められなかった」の方は、同じく資料文(4)の村の取り決めや年貢の書類には夫の名前のみが記載されたという記述から判断しました。
>>以上です。

> 「相続の書類上では」の方は、資料文(4)の宗門人別改帳の記載に妻の名前が付されたという記述から判断しました。
宗門人別改帳は「相続の書類」ではなく,資料文(4)にあるように「家ごとの構成員を示す」台帳です。
したがって相続の書類と表現すると,何を指しているのかが判断しかねます。
ところで,
「百姓平左衛門後家ひさ」
のように,「百姓」という言葉を頭に名前が記されていることから,ひさが家の当主となったことがわかります。
とはいえ,「平左衛門後家」のように「亡夫の名前を肩書きに付けて」(資料文(4))記されている点に注目して考えたいところです。

> 「その他において認められなかった」の方は、同じく資料文(4)の村の取り決めや年貢の書類には夫の名前のみが記載されたという記述から判断しました。
夫の平左衛門はすでに死去しています。
にも関わらず,村の取り決めや年貢の書類に「平左衛門」と記されたことをどのように解釈しますか?
その際,資料文(4)に
「S村では,男性当主は家名として代々同じ名前を継ぐことが多かった。」
と書かれている点にも注目して考えたいところです。

追記です。
書き直しを行った際,なぜ以前の答案を書き改めたのか,その思考の過程が見えてきません。

今回でも,2つの質問に応えてくれたのはよいのですが,そのことが,書き直しの答案にどのようにつながるのか,さっぱり見えません。

それらをしっかりと説明してください。

それに、サイトにある僕の解答例(の一つ)をほぼそのまま書いてきてOKだと思いますか?

≪書き直し2回目≫

B女性は家においては当主として認められたがその地位は男性より下であり代理の相続者とされた。村においては女性が当主になった場合も通り名が用いられ,男性中心社会の建て前が重んじられた。

> 「女性は家においては当主として認められたが」…宗門人別改帳の記載にひさの名前が付けられたこと
> 「その地位は男性より下で」...平左衛門の名前の後にひさの名前が記載されていること
> 「代理の相続者とされた」...資料文3の、一時的に女性が相続してその後男性に家督をゆずっていること
> 「村においては女性が当主になった場合も通り名が用いられ」...平左衛門の死後も村の取り決めや年貢の書類に平左衛門の名のみ記載されたこと
> 「男性中心社会の」...資料文2の、相続者の過半を長男が占めたこと
> 「建前を重視した」...平左衛門の死後もその名が村の書類に記載されたこと
> です。よろしくお願いします。

「村においては女性が当主になった場合も通り名が用いられ,男性中心社会の建て前が重んじられた。」
設問では,女性の位置づけた問われています。
この文章で,その問いに対応した文章になっていると判断しましたか?

ところで,「男性中心社会の建て前」についてです。
相続者の過半を長男が占めている点は根拠としては不十分です。
それよりも,家名=村において家を代表する名前に注目して判断したかったところです。つまり,資料文(4)の第1文です。

≪書き直し3回目≫

B女性は家においては当主として認められたがその地位は男性より下であり代理の相続者とされた。村においては女性が当主となった場合も通り名が用いられ,正規の家長として認められた。

> 解答の根拠は以下の通りです。
> 最終文の「正規の家長として認められた」の部分は、先生からご指摘いただいたとおり、家名の意味と、それが女性が当主となった場合にも村の書類に記載された、というところから判断しました。

「男性中心社会」をうまく活かせればよかったところです。
その意味では,
> 女性が当主になった場合も通り名が用いられ,正規の家長として認められた。
の部分は
「女性が当主になった場合は通り名を用いる限りで正規の家長として認められた。」
と表現すると,より良いと思います。

この問題はOKです。