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年度 1979年

設問番号 第2問

テーマ 得宗専制発生の背景/中世


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設問の要求は,得宗専制がどのような事情から生まれてきたか。条件として,元寇(蒙古襲来)との関連を中心に説明することが求められている。

まずは得宗専制政治の内容を整理しよう。
北条得宗家(嫡流家)による独裁
(1)得宗家私邸での寄合で幕政を協議・決定
(2)内管領など御内人の発言力が拡大
(3)守護職の半ば以上を北条一門で独占

次に,上記のような特色をもつ得宗専制政治が生まれてきた事情を確認しよう。
(1)(2)…得宗家という特定の集団に権力が集中するにいたった事情について。
これについては次のように2つの側面から考察する必要がある。
(a)将軍や他の御家人ではなく得宗家(北条氏の嫡流家)に権力が集中した事情
○将軍独裁を排除するなかで執権政治(有力御家人の合議制)が成立。
○権力抗争のなか,北条氏により有力御家人が滅ぼされてきた→北条氏の覇権が確立
−−ここには“蒙古襲来との関連”が見出せそうにない。
(b)合議制から独裁(特定の人物や集団への権力集中)へと転換した事情
一般的に言って,戦争や内乱などの緊急事態においては,民主的な慣行・適法なる手続きは無視され,権力保持者(あるいは集団)の意志や決定が全体の意志・決定として貫徹され,それへの反対・批判は圧殺されてしまうものである。つまり,緊急事態においては独裁政治が生じやすいのである。
このことを念頭におけば,蒙古襲来,ならびに第3次襲来にそなえた警戒態勢の継続という軍事的緊張状態が幕府政治の集権化を進め,合議制を形骸化させて独裁政治(専制政治)をもたらしたことは想像つくだろう。

(3)…北条一門による守護職の独占がすすんだ背景について。
○蒙古襲来が御家人の困窮を促進し,惣領制の解体をもたらした点について
蒙古襲来にともなう軍役の負担は,分割相続により所領の細分化が進んでいたこともあって,御家人の困窮を促進した。そのため,御家人のなかには所領相続方法を分割相続から単独相続へと切りかえるようになっていった。こうして相互に独立的な一族が惣領を中心として固く団結していた惣領制がくずれ,武士団の内部に対立と抗争が発生し,次第に血縁よりも地縁を重視する傾向を強めていく。
○蒙古襲来をきっかけに幕府が支配権を拡大した点について
幕府は蒙古襲来に際し,本所一円地の住人=非御家人の動員権を獲得し,戦闘だけでなく異国警固番役に動員していった。
→こうした動きを背景として守護の果たす役割が高まり,そして,対抗勢力の成長を排除するために北条氏による守護職の独占が進む。


(解答例)
執権時頼の代に北条氏の覇権が確立していたが,蒙古襲来に伴う軍事的緊張の高まりを背景に幕府政治の集権化が進んで有力御家人の合議制は形骸化した。また,蒙古襲来による過重な軍役や異国警固番役の継続は御家人の窮乏を促進し,惣領制の解体,地縁的結合を重視する傾向を招いた。そのため,守護の果たす役割が大きくなり,北条一門による守護職の独占が進んだ。こうして,幕府政治は北条得宗家による独裁政治の傾向を強めた。