年度 1985年

設問番号 第2問


下記の文章は、鎌倉幕府の執権北条泰時が行った裁判についての説話である。この文章から知ることのできる、この時代の武士社会の特質について、6行以内で述べよ。

 鎮西に、ある国の地頭、世間不調にして(世渡りの才なく)、所領を分ち売りけるを、嫡子なりける者の、世間賢く貧しからぬ者にて、この所領を買ひて、父に知らせけること(領有させること)、度々になりぬ。さて、かの父死して後、かの嫡子には譲らずして、次男にさなから跡を(全部の遺領を)譲りけり。嫡子鎌倉にのぼりて訴訟す。弟召しのぼせて対決におよぶ。この事ともにその謂れあり。兄不便に思はれけれども、弟譲文を手に握りて申しあぐ。押しても成敗なくして(直ちには判決せずに)、明法の家ヘ尋ねらる。法家に勘じ申さく(法曹官僚が答申するには)、「もと嫡子たり。また奉公ありといヘども、子として父につかうるは、孝養の義なり。奉公は他人にとりての事なり。しからば父にすでに子細あればこそ、弟に譲り候けめ。されば弟が申すところ、その道理あり」と申しける上は、弟安堵の下文(相続承認の公文書)給はりて下りにけり。