年度 1993年

設問番号 第3問


次の文章を読み、下記の設問に答えよ。

  お奉行の名さへおぼえずとし暮れぬ

 伝統的な日本の法意識では、法とは政治的支配者による命令禁止の規範であって、私的権利の体系ではなかった。(中略)厳命厳禁ばかりを羅列した高札に向かっては、笠などを脱いで礼をするのが、よい心掛けとされた。こうした社会では、自己を主張することなく、既存の団体秩序に密着し、同一化するのが世渡りの方便であり、「長きには巻かれよ、太きには呑まれよ」という知恵は根深く残った(中略)。

 上に掲げた俳句の作者は小西来山(承応3−享保元、1654−1716)、大坂の人で、この句の前書きには、「大坂も大坂、まん中に住みて」とある。奉行とはいわば裁判を主務とした行政官、大坂では東西両町奉行が幕府の権威を代表した。各奉行の名は任命、着任に際して町人に触れられ、町触にはその名を連ねるから、来山も目にし耳にしたに違いない。 (平松義郎『江戸の罪と罰』)

設問

小西来山は職業的な俳人であったが、知らないはずのない奉行の名を「おぼえず」とするこの俳句は、幕府の権威に対してどのような姿勢を表明していると考えられるか。5行以内で述べよ。