過去問リストに戻る

筑波大学 個別学力検査等試験問題【前期日程】(日本史B)

年度 1998年度(平成10年度)  設問番号 第4問

テーマ 五・一五事件の政治的意義/近代


次の文章は『木戸幸一日記』(東京大学出版会,1966年)の一節である。文中の下線部分(1)〜(3)の意味するところを具体的に説明しながら,五・一五事件の政治的意義について論述せよ(用字・用語は出典のまま)。

五月十五日(日)晴
(中略)
 雨宮属より電話あり,只今陸海軍の軍人が自働車にて官邸に来り,爆弾を投じ且つ警衛の巡査をピストルにて打ちたりとのこと故,大に驚き,予定を変更し直ちに官邸に赴く。官邸に至れば正門は既に固く鎖され居り,警察より現場検証の警官来り取調中であった。不発の手榴弾一箇は門と玄関の中間の砂利の上に不気味に横って居る。
 先づ大臣に面会,御見舞いを云ふ。御怪我のなかったのは何よりだ。
(中略)
 当初は内大臣邸のみと思って居たところ,同時刻頃に警視庁,政友会,日本銀行等も襲はれたることが判明,其中総理官邸も襲はれ且つ総理は面会してピストルにて頭部を打たれ重態とのことが判明したので,爰に(1)本事件は政変を招来するの虞れあることが明瞭となり,容易ならぬ事態なることを知るに至った。
 犯人は海軍将校五名,陸軍士官候補生十一名,他一名計十八名にして,麹町憲兵分隊に自首して出たとのことだ。
 宣言書の如きものを配布したが,右は(2)政党並びに側近は腐敗し居るを以て,現状を打破し,堅固なる組織をなすの要ありとの意味のものだ。
(中略)

五月十六日(月)晴
(中略)
 ラヂオの放送によれば西田税も負傷し,且つ東京及近郊の変圧所の破壊も計画せられ,其一部は着手せられたることが判明す。愈々容易ならざる計画なることを思はしむ。
(中略)
 午前三時に帰宅,少時休息の後,午前七時に井上侯を訪問,今回の事件に対する軍部の動静につき意見を聴く。同君の意見は大体今日のところ昨夕来の事件にて軍部は別段の動揺を見ず,只今後の時局収拾につき後継内閣の組織等に就ては充分の決心と熟慮を要すべく,(3)所謂憲政の常道論により単純に政党をして組閣せしむるが如きことにては軍部は収まらざるべしと思はるとのことだった。