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秩禄処分

メールでの質問への応答です(2000.10.24)。
> 秩禄処分を詳しく教えてください。
> いまいち、よく分かりません。お願いします。

もともと江戸時代の武士は主従関係のもとにあって,主君と家臣とは御恩・奉公の契
約関係を結んでいたわけですが,家臣は主君からの軍事動員に応じる代わりに領地や
俸禄を支給されていました(大名の家臣の場合は領地をもらわずに城下町に住んで俸
禄だけをもらっている連中がほとんど)。この俸禄は江戸時代には親から子へと継承
されていったので,「家」に与えられた俸禄という意味で“家禄”とよびますが,さ
らに米で支給される場合は“秩禄”,現金で支給される場合は“金禄”と称します。

ここでもう一度確認しておきたいのは,家禄(秩禄)は主君からの軍事動員に応じる
代わりに支給されているものである点です。軍事動員に応じるには,武具や馬,家来
などを備えておかなけれなりませんが,その費用をまかなうために家禄(秩禄)が支
給されているのです。

ところが,版籍奉還・廃藩置県の過程で大名と家臣との間の主従関係が否定されてし
まいます。それでも,武士身分に属していたもの(→華族・士族)が新たに軍事の職
能を世襲で担うように編成されれば,家禄は存続する根拠を獲得します(ですから廃
藩置県以降に明治政府が華士族に家禄を支給しつづけていたのは一時的な措置です)。
ところが,明治維新以降,徴兵制(国民皆兵)が導入されていきます。徴兵制とは,
成年男子に国家への義務として兵役を課すもので,江戸時代のような武士という特定
身分に属するものだけが軍事を担うというあり方は否定されるわけです。こうなれば,
かつての武士身分に属したものだけに家禄を支給する根拠は全くなくなってしまいま
す。

そのうえ,家禄と,維新での功績に対して給与されていた賞典禄をあわせると,政府
の歳出のうち37%を占めています。根拠のない(→意味のない)支出で政府財政が圧
迫されていたわけです。だから,近代化政策を進めたい政府は家禄(秩禄)の削減を
徐々に進め,最終的に1876年金禄公債証書を交付する代わりに家禄(秩禄)の支給を
打ち切ってしまいます。これが秩禄処分です。

なお,この措置は,何年か分(数年から十数年分)の家禄を額面とする公債を華士族
それぞれに交付するというものですが(額としては,華族が1人平均6万4000円,士
族は1人平均 500円ほどです),家禄の支給を完全にストップさせてしまうと反発も
あるし華士族の生活を保障することもできないので,公債を交付するという措置をと
ったのです。
公債をもっているということは政府に対して金を貸しているということですから,利
子の支払いがあります(利子は5分〜1割程度)。華族のように多額の公債を交付さ
れれば支払われる利子も多く,また公債をもとでに企業・銀行などに投資して経済的
な安定を確保することもできましたが,少額の公債を交付された大部分の下級士族は
没落せざるをえなくなります。