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兌換制度について

メールでの質問への応答です(2002.09.28)。
> 資本主義の発展のところを勉強していてわからなかったのですが、なぜ兌換紙幣
> じゃないと信用がないんですか?それはやはり明治時代以前の貨幣の価値観の名
> 残なのでしょうか?でも兌換紙幣で銀行に金が保管してあってもそれを実際に貨
> 幣と交換して使う人がいるのでしょうか?どこで何のために・・・?

まず,「兌換紙幣じゃないと信用がないのか」について。

今の紙幣は不換紙幣ですが,
私たちはそれを完全に信用し,紙幣(円)を使って商品の売買や資産の蓄積などを行っているいますよね。
つまり,
兌換紙幣だろうと不換紙幣だろうと信用があります。
なにしろ,貨幣はそもそも信用によって成り立つものですから。

では,
兌換紙幣と不換紙幣の違いはどこにあるのかと言えば,
それは“何によって紙幣の信用が保証されているか”にあります。
兌換紙幣は一定量の金との無条件での交換(兌換)が規定されており(1871年の新貨条例なら1円は1.5gの金,1897年の貨幣法なら1円は0.75gの金),
それによって信用が保証づけられています。
つまり,
1897年以降の金本位制では,
1円紙幣は0.75gの金と同等の価値(信用)が保証されているのです−兌換が停止されない限り−。
いいかえれば,
1円紙幣は“0.75gの金との無料引き換え券”なわけです。
それに対して,
不換紙幣の価値(信用)は政府の政策によって保証づけられます。
紙幣流通量を調整したり,物価を調整したりなどの政策によって紙幣の信用が保証,安定させられているのです。
ところが,
物価が短期間に100倍,200倍……,1000倍と暴騰することもあり,
その場合,紙幣価値が暴落してしまい,
紙くず同然になってしまいます。
つまり,
不換紙幣は信用があるものの“紙くず同然になる”可能性もあるのです。
以上から,
兌換紙幣の方が不換紙幣よりも信用(価値)が安定していることがわかるでしょう。
逆にいえば,
紙幣というものを本格的に導入するにあたって,
それに信用を与えるために兌換制度が導入されたのです。

では,
実際に兌換する人がいるかどうか。
次の2つのケースがあります。
(1)紙幣の発行主体(発券銀行)に対する信用がきわめて低い(低下した)場合,
人びとは兌換請求を行います。
紙幣は素材としてはただの紙切れで,
素材そのものには法律(新貨条例や貨幣法)で規定された金と同等の価値があるわけではありません。
ところが,
「兌換紙幣を手にしている」ということは発券銀行に一定量の預金がある(金を預けてある)のと同じです。
ですから,
発行主体の銀行に対する信用が低く,
その銀行が破綻するかもしれないとの危機感がある場合,
兌換紙幣を手にしている人びとは当該の銀行へ兌換を請求する(つまり預金を解約する)でしょう。
また,
物価が高騰し,兌換停止の措置(ある意味では預金封鎖ですね)がとられるかもしれないとの予測が成り立ち,
その結果,
もしかすると紙幣が紙くず同然になるかもしれないとの危機感が生じたときも,
紙幣を金に兌換しようとする人びとが増えるでしょう。
紙幣が紙くず同然になると,
紙幣(円)で形成していた資産は無に帰してしまいますから,
資産を保全するために紙幣(円)を金に置き換えようとするわけです。

(2)輸出入の決済にともなって兌換が行われます。
輸出入の決済には通常,外国為替が用いられますが,
その相場(外国為替相場)は輸出入の動向により変動します。
外国為替に対する需要(輸入代金の支払いなどで生じる)と供給(輸出代金の受取りなどで生じる)の関係に応じて変動するのです。
たとえば,
アメリカに対する輸入超過のときは,ドル建て為替に対する需要が大きくなるので外国為替相場は円安となります。
ところが,
円安になりすぎると,
金地金をアメリカに輸送してアメリカ連邦準備銀行でドルに換えて決済にあてる方が,
輸送費用(運賃プラス保険料)を差し引いても得になります。
ですから,
外国為替相場が金平価(円・ドルの金との兌換レートに基づいた相場)から輸送費用(運賃プラス保険料)を差し引いた水準まで円安になると(注),
日本銀行に紙幣を持参して兌換を行って国際決済にあてる人びとがでてきます−輸出超過の場合は逆−。
このように貿易取引きにともなって国際決済のために兌換が行われるのです。

(注)
平価は100円=49.845ドルで(1円=金0.75グラム),
金の輸送費用(運賃プラス保険料)は,1930年頃・アメリカ向けで金75グラム当たり約0.47ドル。
ですから外国為替相場は,
100円=49.375ドル(平価マイナス金輸送費用)よりも円安にはなると,
「日本銀行で兌換→アメリカへ金貨・金地金を輸送」という決済方法が選ばれます。
円高の場合は逆で,
外国為替相場が100円=50.315ドル(平価プラス金輸送費用)を越えると,
「アメリカ連邦準備銀行で兌換→アメリカから金貨・金地金を輸送」という決済方法が選ばれます。
その結果,
金本位制のもとでは,
為替相場は金平価±金輸送費用の値幅のなかでしか変動せず,
その意味で安定します。
[2002.09.28]