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一味神水

  中世後期,室町時代には,人びとは何かの目的のために一致団結する必要があると,一揆を結ぶことがしばしばありました。国人や国衆などと呼ばれた地方武士たちが結んだ国人一揆,荘園の住人である百姓たちがまとまって起した荘家の一揆,地侍らに指導された百姓や都市下層民らが結んだ土一揆など,さまざまな階層の人びとによって多様な一揆が結ばれました。
 こうした一揆を結ぶ際に,参加者全員の団結を強め,維持するために行われた儀式が,一味神水です。
 一揆に参加する人びとが神社の境内に集り,団結して行動すること,もし違反したり脱落した場合にはどのような神罰をこうむっても構わないことを誓いあうのです。その際,誓いは起請文という文書に記され,参加者全員が署名します。そして,起請文を焼いて灰にし,その灰を神水に溶かして,全員で回し飲みするのです。
 神水とは,神前に供えられた器に入れた水で,神社の境内にある井戸水や池の水などが用いられることもありました。こうした水は神の飲み水と考えられていました。それゆえ,神水を全員で分かち合って飲むというのは,神と人,人と人が共食共飲することを表現したもので,神と人との交感,神を媒介とした人と人との結びつきを確保する行為と考えられていたのです。
 さしずめ,神と人,人と人との間で,かための杯を交わす儀式,というところです。
 さらに,儀式のなかでは,鐘や鉦などの金属器を打ち鳴らすことも広く行われていました。金属器を打つ音によって神を呼び出すことができると考えられていたようです。
 金属音が鳴り響く,一種異様な雰囲気のなか,精神的な高揚をともないながら,人びとは一致団結して一揆を結んだのです。
[2009.01.27登録]