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戦国大名の検地と貫高制

メールでの質問への応答です(2000.11.28 & 2000.12.2)。
>
>                       質問があるのですが、戦国大名は
>家臣を城下町に常住させ土地と切り離した、とありますが、では指出検地とはなんで
>すか?土地を自己申告でさしだすと言う事は土地ときれてませんよ?戦国大名の領国
>支配について教えてください。特に土地政策と家臣の統制策について

戦国大名の家臣統制策といえば,指出検地以外にもさまざまありますが,とりあえず
土地政策と関連する限りでの家臣統制策として,指出検地と貫高制について説明して
おきます。

“指出”というのは「土地をさしだす」ことではなく,土地台帳を指し出すことです
が,家臣へと編成された国人・地侍たちが自分の支配地域(所領)について年貢収納
高などについて記した土地台帳を戦国大名のもとに指し出すのです。その際,戦国大
名は家臣のすべての所領をできる限り把握しておこうとします。
そして,年貢収納高は銭額に換算されて貫高で表示されます。土地の規模が貫高とい
う統一的な基準のもとで一元的に表示されるようになったのですが,その貫高は国人
・地侍たちの収入・地位を示す指標でもあります。つまり,次のようになります。
 土地の規模−−貫高−−国人・地侍たちの収入・地位
検地が実施されたのち,国人・地侍たちはその収入・地位を保障されますが,それは
貫高が保障されたのです。“○○国××郷という固有性をもった土地”ではなく“貫
高”を保障されたのです(もちろん所領を給付する際にはそれぞれの土地の政治的な
重要度に応じて家臣の人選がなされるものですが)。
こうして,土地の規模が数量化されることによって土地(所領)は相互に置き換えが
可能となり,国人・地侍たちを土地から引き離しやすくなったわけです。表現をかえ
れば,国人・地侍たちが権利を有するのは貫高に対してであって,土地に対してでは
なくなった,と言えます(この意味においては国人・地侍たちは土地から切り離され
たわけです)。
なお,石高制を基礎として確立した大名知行制のもと,大名は“鉢植え”状態になっ
たと言われますが,それもここで説明した事情に基づくものです。
さて,戦国大名は家臣に対して貫高を保障したのですが,家臣は貫高に応じて軍役を
負担することを義務づけられます。貫高にみあった規模の兵馬を常備し,合戦へ動員
することが義務づけられたのです。こうして貫高制のもとで主従関係が強化されてい
きます。

>つまり、国人の持っていた土地を彼らの本領地として認めるのではなく、いわゆる一
>つの知行地みたいな感じで認めるわけですな。で、貫高とはその土地の価値をお金で
>表した感じですな。保証されるのは、その貫高であって、鎌倉の御家人みたいに本領
>安堵ということではないということですね。こもような、政策があったから、今川仮
>名目録には、戦国大名は室町幕府からは自立した権力であり、個々の国人層は今川氏
>から独立していないとかかれているわけですね。

やや誤解があります。
まず「本領地」と「知行地」を対立概念として使っていますが,「本領地」(私領)
に対立する概念は「恩地」(新恩給与の所領)で,いずれも「知行地」です。
“知行”とはもともと,仕事・職務を執行すること,そしてそれに付随する利益を自
分のものにすることですが,“仕事・職務とそれに付随する利益”のことを職(しき
)と称しますから,職が知行する対象であり,つまり所領です。平安後期に出現した
開発領主の“私領”も国衙領(公領)や荘園の職に補任されることで初めて“私領”
として存在したのです。鎌倉幕府の御家人制下でも,本領(私領)の安堵は地頭職に
補任されるという形で行われます。つまり,「本領」(私領)も「知行地」なのです。
さて,前回のメールで,貫高制のもとで“土地の規模が数量化されることによって土
地(所領)は相互に置き換えが可能となり,国人・地侍たちを土地から引き離しやす
くなった”と書きましたが,それは,“本領安堵を行わない”ということではありま
せん。征服地ならいざしらず,全ての国人・地侍を本領から引き離すことができるほ
ど,戦国大名の権力が強かったわけではありません。
とはいえ,鎌倉の御家人であれば<○○国××郷の□□職>という固有性をもった所
領を保障されたわけですが(→そして職を通じて土地に対する権利を有していた),
戦国大名のもとでは,“<□□貫>の保障”→“それに見合った貫高の<○○国××
郷>”という形で所領を保障されたわけです(理念的にすぎなかったとしても)。

次に,貫高について「土地の価値をお金で表した感じ」と書いてありますが,その「
お金」が“年貢や加地子の収納高をお金に換算した額”であれば,“感じ”ではなく,
そのものです。