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三国干渉におけるロシアの動機

メールでの質問への応答です(2000.10.12)。
> 今日の質問は、三国干渉の動機、広く言えばロシアの南下
> 政策ですが、「遼東半島の旅順・大連などの不凍港を重視
> していた。ウラジオストックは冬季使用不能のため。」
> とういことを聞いたことがあるのですがどうなんでしょうか。
> 三国干渉の中身ではもちろん上記内容はないのですが、ロシアの状況
> としてはどうなんでしょうか。
> もし分かれば教えてください。

ロシアが遼東半島の清への返還を求めた理由として「満州進出」を策していたことが
しばしば指摘されます。ただし,「満州進出」への志向(いわゆる南下政策)は一般
論としては成立しますが,日清戦争時のロシアが“遼東半島の旅順・大連を不凍港と
して重視し,その領有をねらっていた”とは言えません(ウラジオストックが冬季使
用不能なのは事実ですが)。

もともと満州進出は極東ロシア領の防衛とのかねあいで策されていたのですが,ウラ
ジオストックとの兼ね合いでいえば「朝鮮の中立を確保すること」(→朝鮮海峡の通
行の自由を確保すること)の方が重大ですし,実際,日清戦争前のロシアの主たる関
心も後者にありました(だからこそ日清戦争前のロシアは日本に友好的です)。そし
て日清戦争末期のロシア内部での協議のなかで,日本の遼東半島領有を認めるかわり
に朝鮮に不凍港を要求するという案が出されています(結局は否定されましたが)。
それに旅順・大連を獲得したところで,極東ロシア領との接続がなければ意味があり
ません(海路でいえば朝鮮の中立が確保されなければ旅順・大連そのものの防衛が危
ない)。その意味で,旅順・大連の領有は満州に鉄道を敷設するという政策と抱き合
わせで初めて実質的な意味をもつと言えます。

また,ロシアが三国干渉を実施するとの態度を決めた際,“朝鮮独立とその領土保全
”を要求することが決定され,日本政府への勧告のなかでもそのことが明言されてい
ますが,中国についてのロシアの主たる関心は,日本の満州進出を阻止し,日本の遼
東半島領有を契機として開始される可能性が高まっていた清国分割を延期させること
でした(その際,ロシアはイギリスも干渉へと誘いますが,イギリスは日本が下関条
約において長江流域の通商特権を獲得したことで干渉への参加をやめます)。そして,
分割競争の開始を遅らせる間にシベリア鉄道を満州に延長することをめざしたのです
(ウィッテの主張)。その具体化として,ロシアは1896年露清密約で東清鉄道敷設権
を獲得したわけです(ちなみに,1898年の旅順・大連租借条約でハルビン・旅順間に
南部支線を建設することが認められ追加されます)。
[2000.10.12]