[テーマ/目次] 

僧兵の強訴について

メールでの質問への応答です(2000.9.20 & 9.21)。
> 院政期の話。
> 「僧兵が神木や神輿を用いて強訴を行った」とどの教科書、参考書にもありますよね。
> そこで具体的にどういったことを強訴したのか知りたかったのですが、
> 手持ちの参考書等には「強訴した」としか載っていないのです。
> ですから、よろしければそのことについて教えて頂けないでしょうか?
> お願いします。

地方の荘園をめぐって国司と延暦寺・興福寺などの大寺社が対立して紛争が生じたり,
また大寺社の末寺・末社に所属する僧侶・神人の行動をめぐって国司との紛争が生じ
たりした場合に,大寺社は僧兵の強訴によって国司の処罰・配流を朝廷に要求してい
ます。また,朝廷(とりわけ上皇)が大寺社内の人事に介入したとき,それに反発す
る僧兵が朝廷に強訴を行うケースもあります。
[2000.09.20]

> 一つ気になったのですが、「僧侶・神人の行動をめぐって国司との紛争が生じ…」
> というのはどういうことなのですか?
> 寺社の荘園は税を免除されていたり、院から保護受けていたわけですよね。
> (となると、上皇に反発というのがおかしくなるのか…)
> そこから調子にのるような僧侶・神人が出て態度が悪かった、
> というようなことですか?
> その僧侶・神人の行動の具体例を挙げていただけないでしょうか。

寺社の荘園は免税特権を得るなど院から保護を受けていますが,寺社側の論理として
は“寺社は鎮護国家の役割を担っているのだから朝廷がさまざまな保護を施すのは当
然のこと”。だから,朝廷や院からどれだけ保護を受けていようが,より一層の保護
・特権を求めて朝廷や院と対立するという事態が起って当たり前です。
また,大寺社が上記のような論理を使って朝廷からさまざまな保護・特権を引き出し
て独自の経済基盤を確保し,独立性を強めるのに対し,院が何とかして自らの統制下
に置こうと試みるのも当然です。その手段の一つが人事への介入です。
たとえば,大宰府近郊に大山寺という延暦寺の末寺があるのですが,そこの別当に院
宣によって石清水八幡宮別当が任じられたことがあります。ところが,延暦寺の側で
も大山寺の運営を確保しようと僧侶らを現地に派遣します。当然,そこでは両者の間
で武力を伴った衝突が起ってしまいます。そして,院宣を背景として大山寺に介入し
ようとした石清水八幡宮側は自らの立場を有利にするために朝廷や大宰府を動かせば,
延暦寺側は朝廷に対して強訴を繰り広げることになるわけです。

それから,僧侶(→僧兵)や神人の行動についてです。
まず僧侶(→僧兵)と神人の規定ですが,のちに僧兵と呼ばれるようになる僧侶は当
時「悪僧」と表現されていますが,それは下級の僧侶で,神人とは下級の神職です。
いずれにしても寺院・神社に所属して雑役に従事した人びとで,彼らは武装し,寺社
の武力を構成していました。
こうした人びとは,延暦寺や興福寺などの本山だけにいるわけではなく,各地に存在
するそれらの末寺・末社にもいます。そして,悪僧や神人は各地の寺社に集積された
年貢などをもとに地域の開発領主や農民たちに対して積極的に出挙を行っており,そ
の債務がもとになって開発領主の所領や農民の耕作する田地が寺社の荘園に編入され
てしまったり,開発領主・農民らがそれら寺社に所属する寄人・神人となってしまう
ことも少なくありません。この開発領主・農民たちが公領の住人で,それまで国司の
管轄下にいたとすれば,そこに国司との紛争が生じることになります。
[2000.09.21]