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在郷商人が生まれた背景

メールでの質問への応答です(2002.02.09)。

> 在郷商人に関してなのですが,在郷商人が生まれた背景として,
> 農民が栽培していた商品作物を問屋商人が買い上げていたが,彼らが幕府から専売権
> を得て,農民から農作物を安く買い上げるようになると,農民は不満を抱くようにな
> り,自ら自由に販売を行おうとした
>
> と考えればいいのですか??

在郷商人とは百姓身分出身の商人のことであり、農村部で活躍する商人です。
もともと百姓とは、「村」の構成員として把握され、検地帳で保持を認められた持ち分の石高に応じた年貢を負担する義務を負った人びとのことで、必ずしも農業を専業としている人びととは限りません。もちろん、百姓は農民(農業を専業とする人びと)が多かったようですが、大工などのような職人であれ、行商を兼業でやっているものであれ、とにかく検地帳に登録されて田畑・屋敷地の保持を保障され、村の構成員として認知をうけている限りにおいては、彼らは百姓身分に位置づけられていたわけです。
ですから、農業が稲作第一から商業的農業へと転換するのにともなって、百姓身分のもののなかから商業活動を幅広く展開する人びとが登場し、彼らが在郷商人(在方商人)と称されることになります。

もちろん、流通を主導する問屋商人との対立が生じるようになるなかで、在郷商人の存在がクローズアップされてくることは事実です。
とりわけ、18世紀後半になり在郷商人の活動が活発化するなか、大坂市場への物資集荷が停滞し、それに対応して田沼時代に在方株が設定され、在郷商人が大坂の株仲間の問屋商人の統制下に編成されたため、19世紀前半には、大坂の問屋商人による流通独占に対し、在郷商人の指導のもとでそれに反対する合法的訴訟運動(国訴)が発生するようになりました。
しかし、それは在郷商人が台頭するなかで生じた現象であり、在郷商人が生まれた背景ではありません。

なお、
> 彼らが幕府から専売権
> を得て,農民から農作物を安く買い上げるようになると,

株仲間について、このように理解するのは誤りです。営業の独占権を保障されたのであり、専売制とは異なります。

> 在郷町をどう捉えたらよいのか分かりません。在郷商人の活動が活発化した
> のに伴って設置されたのは分かるのですが。。。。。

幕藩領主によって「設置された」わけではなく、在郷町とは農村部に自然発生的に形成された都市(都市的な空間)です。