年度 2012年
設問番号 第3問
【解答例】
1緊急勅令の発令権,陸海軍の統帥権。緊急勅令の発令権は,帝国議会閉会の場合,緊急の必要によって,法律と同じ効力をもつ勅令を発することができる権限で,陸海軍の統帥権は,陸海軍を指揮し,作戦・計画を遂行する権限である。
2GHQは,幣原内閣の設けた憲法問題調査委員会の作成した憲法改正案が天皇の統治権を強く残す保守的な内容だったことに不満をもっていた。そのうえ,占領政策の最高決定機関である極東委員会がすでに発足しており,活動が本格化する前に,アメリカ主導の占領政策を既成事実化させようとした。
3高野岩三郎らによる民間の憲法研究会が主権在民と立憲君主制を採用した改正案を作成していた。
4民法と刑法が改正された。民法改正により,戸主の家族に対する婚姻の同意権や居住指定権などの権限,家督相続制度が廃止され,男女同権・夫婦中心の家族制度が定められた。刑法改正により,皇室を対象とした大逆罪・不敬罪が廃止された。
(総計400字)
過去問との重複が多い。
問1
問われているのは,大日本帝国憲法において,統治権の総攬者との規定に基づいて天皇が有していた強大な権限のうち2つをあげ,その内容を簡潔に説明すること。
天皇大権について説明すればよい。天皇大権には,陸海軍の編制や統帥,宣戦・講和や条約締結,緊急勅令の発令,戒厳令の布告などがある。
陸海軍の編制…陸海軍の装備編制と兵力量の決定
陸海軍の統帥…陸海軍の作戦計画の遂行(→内閣からも独立するとの慣行が形成)
宣戦・講和や条約締結…戦争を開始,講和を締結,条約を締結するといった外交上の権限
緊急勅令の発令…帝国議会閉会の場合に,法律と同じ効力をもつ勅令を発する
戒厳令の布告…非常事態の発生に際し,軍に統治の全権をゆだねる
このうち,陸海軍の編制権と統帥権は2002年度第3問で既出。
問2
問われているのは,なぜGHQが憲法草案の直接起草に踏み切ったか。2001年度第3問で既出のテーマ。
まず,日本側で作成された草案にGHQが不満をもったことに触れ,そのうえで,「直接」起草にふみ切った背景を説明すればよい。
GHQが不満をもった点:日本の改正案が天皇の統治権を強く残したものであったこと
GHQが「直接」起草にふみ切った背景:占領政策の最高決定機関である極東委員会がすでに発足,しかし活動はまだ本格化していない,という時期
→GHQの意図:アメリカの主導権を確保,あるいはアメリカ主導を既成事実化
問3 問われているのは,GHQによる憲法草案の内容に,敗戦直後からの日本側のさまざまな試みが影響を与えていたことを具体的に説明すること。 高野岩三郎・鈴木安蔵らが結成した民間の憲法研究会は,1945年末に主権在民,立憲君主制をとる「憲法草案要綱」を発表し,日本政府だけでなくGHQにも提出していた。そして,GHQの民政局長ケーディスが憲法草案を執筆した際,この草案をも参照したとされている。
問4
問われているのは,憲法制定を受けて改正された法律を2つあげ,その内容を説明すること。条件として,資料2の一四条,二四条の条文を参照することが求められている。
第14条は,「人種,信条,性別,社会的身分又は門地により」に注目。
第24条は,「両性の合意のみに基いて成立」「両性の本質的平等に立脚」との規定ならびに「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定」に注目。
第24条については,民法改正がすぐに想起される。2001年度第3問で既出。
明治民法では,戸主が家族に対する婚姻の同意権や居住指定権などの権限をもち,戸主の地位と家の財産は家督として原則長男が相続することとされていた。ところが,民法改正により戸主制度や家督相続制度が廃止され,男女同権,夫婦中心の家族制度が定められた。
第14条については,憲法制定後に改正された法律を想起しつつ,「人種,信条,性別,社会的身分又は門地」に関連する内容をもつものを探せばよい。そうすれば,刑法改正が思いつくだろう。天皇・皇族に対する犯罪だけが大逆罪・不敬罪として特別に規定されていたのを改め,それらを廃止した。