年度 2000年
設問番号 第4問
テーマ 1930年代前半の経済政策・状況/近代
設問の要求は,1920年代末〜1930年代前半の経済政策と経済状況。条件として,緊縮政策・金輸出解禁・金輸出再禁止・世界恐慌の4つの語句を使うこと(下線を施す)が求められている。
指定されている時期・語句のいずれからも,“(1)井上財政→(2)昭和恐慌→(3)高橋財政→(4)恐慌からの脱出”という筋道が思いつくだろう。その際,グラフに示されている(a)外国為替相場の変動,(b)商品輸出金額の変動について説明することを忘れないように。
(1)井上財政
≪前提≫
慢性的な不況(物価のインフレ傾向と工業の国際競争力不足)により,輸入超過が継続し,円為替相場が下落と動揺を繰り返していた
≪内容≫
緊縮財政(→物価引下げ)と産業合理化で準備
旧平価での金解禁を実施=円為替相場の安定とともに経済界の整理を促進
(2)昭和恐慌
事実上の円切上げ(旧平価での解禁)と世界恐慌の影響とにより輸出が激減
(3)高橋財政
≪前提≫
(満州事変にともなう軍事費の増大,イギリスの金本位制離脱)
≪内容≫
金輸出再禁止・金兌換停止→管理通貨制度に移行
積極財政(=軍事費と時局匡救費の増大)
低為替政策=円為替相場の下落を利用して輸出を拡大
(4)恐慌からの脱出
(1933年には)世界にさきがけて恐慌から脱出
≪最初の答案≫
慢性的不況に悩む日本経済を立て直すため,井上準之助蔵相は緊縮政策や産業合理化を行なった。その後,金輸出解禁を行って為替相場を安定させようとしたが,世界恐慌の影響で昭和恐慌を招いた。輸出品家格が暴落し,正貨が国外へ流出した。これに対して高橋是清蔵相は金輸出再禁止を行ない,管理通貨制度へ移行した。 |
まず,高橋蔵相による経済政策とその結果としての経済状況についての記述がない。設問の要求にはきちんと応えてほしい。
次に,グラフからデータが読み取れていない。
グラフは,外国為替相場と商品輸出金額の変動を示していますが,ということは為替相場の推移,輸出の推移について記述がなければ,示されたグラフからデータを読み取っていないと判断されます。示された資料やデータと自分の知識を総合して答案を作成することを求めているのが東大ですから,注意すること。
> その後,金輸出解禁を行って
「その後」という接続表現があることで,「日本経済の立て直し」と金輸出解禁との関連が曖昧になってしまっている。
≪書き直し≫
不況の続く日本経済を立て直すため,井上蔵相は緊縮政策をとり,金輸出解禁を行なった。旧平価の解禁は実質的円高となり輸出品価格を上げ,正貨を流出させた上,世界恐慌にも巻き込まれ,輸出額を下げた。高橋蔵相が金輸出再禁止を行ない,低為替政策で為替相場を低下させると,輸出品価格が下がって輸出額が増大した。 |
あいかわらず高橋財政後の経済状況についての説明が欠落している。輸出増大だけが経済状況ではない。
> 旧平価の解禁は実質的円高となり輸出品価格を上げ,正貨を流出さ
> せた上,世界恐慌にも巻き込まれ,輸出額を下げた。
これだと,輸出品価格が上がったから正貨が流出して輸出が減少したかのように読める。「輸出品価格を上げ」は「輸出額を下げた」にかかるのだから,その関連を意識した文章構成とすべきである。
> 低為替政策で為替相場を低下させると,
高橋蔵相は低為替政策をとったが,それは「為替相場を低下させ」たのではなく,為替相場の下落を放置しただけのこと(ある程度下落したところで低レベルで維持する政策へ変更した)。その意味では厳密には誤り。