年度 2001年
設問番号 第4問
テーマ 銅の生産と日本資本主義/近代
A
設問の要求は,銅の生産が「この時期」の日本の経済発展にはたした役割。条件として,グラフ(1881〜1910年における銅の生産・輸出量の推移)を手がかりとすることが求められている。
まず,「この時期」とは具体的にいつのことなのかを確認することが必要。
グラフは1881〜1910年の統計なので,「この時期」とは明治時代全般を指すのではなく,1881年以降の松方財政期と産業革命が進展した時期を指すものと考えるのが適当である。
そのことを念頭におけば,設問のなかで言及されている“「この時期」の日本の経済発展”とは“産業革命の進展”を意味していると判断できるだろう。
次に,グラフの読み取り。
(1)生産量が増大している。
(2)国内での消費量もそれなりに増加しているが,基本的には輸出中心。
ここから,銅の増産が外貨獲得に貢献していることがわかる。
以上を総合すれば,製糸業が明治後期における日本の経済発展にはたした役割を問う設問(1984年第3問)と同じだということがわかるだろう。そこまで分かれば,作成すべき論旨はおのずと決まってくる。
B
設問の要求は,銅の生産がもたらした社会問題。
足尾鉱毒事件について記述できれば十分(1997名古屋大で既出)。
古河経営の足尾銅山から鉱毒が渡良瀬川に流出
→流域の農民・漁民に被害
田中正造らが解決に尽力
→政府の対応=洪水対策のみ(谷中村の廃村・遊水池の建設)
これ以外に,別子銅山煙害問題,足尾銅山争議などもあるが,ここまで書ける必要はない。
≪最初の答案≫
グラフから『生産量のうちほとんどが輸出にまわされてる』こと…ぐらいしか読み取れませんでしたが A銅を輸出して獲得した外貨で,欧米の技術を取り入れ,軽工業分野において産業革命が始まった。 B足尾銅山では,鉱毒が近隣の川などに流出し,農作物や人体にも被害を与えた。この結果,被害農民による抗議が起こり,議員の田中正造が天皇に直訴するなど,大きな社会問題となった。 |
> A銅を輸出して獲得した外貨で,欧米の技術を取り入れ,軽工業
> 分野において産業革命が始まった。
グラフからの読み取りは,それでOK。あとは,答案の構成。
設問で問題とされている「この時期」とは,グラフから判断する限り「1881〜1910年」。ということは,「軽工業分野において産業革命が始まった」というのは不適切だ。なにしろ,産業革命が始まった時期として妥当なのは1880年代後半,広くとっても日清戦争前後。したがって,「産業革命の始まり」が問われているのではなく,「産業革命の特色(とくに貿易収支への影響)」が問題とされていると考えるのが適当だ。そして,それとの関連で銅生産の果たした役割を説明していきたい。
> B足尾銅山では,鉱毒が近隣の川などに流出し,農作物や人体に
> も被害を与えた。この結果,被害農民による抗議が起こり,議員
> の田中正造が天皇に直訴するなど,大きな社会問題となった。
データならびに文章構成についてはOK。
なお,田中正造は天皇に直訴した時には議員を辞職しているので「議員の田中正造」という表現は不適切。それから,「近隣の川など」の「など」は不要(これはどちらでもいいが)。
というわけで,第四問についてはAだけ書き直してください。
≪書き直し≫
国内で銅を生産し,輸出することで外貨を獲得し,それを原料・機械などの輸入にあてることにより,産業革命の進展に寄与した。 |
OKです。