年度 2005年
設問番号 第4問
テーマ 三権分立をめぐる大日本帝国憲法と日本国憲法の共通点・相違点/近代・現代
まず三権がどのように規定されているか。
◎明治憲法
天皇が統治権を総覧しているのだから行政・立法・司法の三権は天皇のもとに集中している。しかし,天皇は憲法の規定に基づいて統治権を行使するものとされ,その統治権の行使には内閣,帝国議会,裁判所が関与した。つまり,形式的には三権分立ではなかったが,それらの国家機関が天皇の統治権行使を補佐する形で実質的に三権を担った点からいえば,それらは全て天皇に直属していたのだから,相互に独立していた。
○内閣→国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス(第55条)
○議会→天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ(第5条)
○裁判所→司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ(第57条)
なお,内閣が担う行政(国務)には枢密院も関与した。
○枢密院→枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス(第56条)
◎昭和憲法
行政・立法・司法の三権はそれぞれ内閣・国会・裁判所に属するものと規定され,相互に独立していた。
○内閣→行政権は,内閣に属する(第65条)
○国会→国会は,国権の最高機関であつて,国の唯一の立法機関である(第41条)
○裁判所→すべて司法権は,最高裁判所及び法律(裁判所法)の定めるところにより設置する下級裁判所に属する(第76条)
次に行政・立法・司法の相互関係について。
◎昭和憲法
○内閣→国会(特に衆議院)の信任にもとづき,国会に対して責任を負う。そして,衆議院の不信任決議に対しては衆議院解散権をもつ。
「内閣は,行政権の行使について,国会に対し連帯して責任を負ふ」(第66条)
「内閣は,衆議院で不信任の決議案を可決し,又は信任の決議案を否決したときは,十日以内に衆議院が解散されない限り,総辞職をしなければならない」(第69条)
○国会→国権の最高機関,すなわち国政の決定において指導的な統合的な地位を占める国家機関。その意味では三権の間の総合調整作用を果たすべき存在。
○裁判所→法律の合憲性審査権(違憲立法審査権)を持ち,議会や内閣の動向を監視・抑制する役割をもっている。
「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」(第81条)
このように,国権の最高機関たる国会を頂点として相互の監視・抑制が制度化されている。
◎明治憲法
天皇が議会の関与なしに行使できる天皇大権をもち,その行使には内閣が関与したため(統帥権を除く),内閣は議会に対して優越的な地位をもっていた。そして,内閣は天皇の信任にもとづき天皇に対して責任を負うものと規定され,議会に対する責任は規定されていなかった。また,内閣や議会の政策を憲法に合致するかどうかを判断する権限は裁判所にはなく(枢密院が担っていた),行政からの指揮・監督を受けないという意味では司法権は独立していたが,内閣(や議会)に対する監視・抑制の機能はもっていなかった。
以上のデータを念頭に答案を作成すればよいのだが,明治憲法のもとでの三権分立をどのように評価するかにより,少なくとも2つのバリエーションがあるように思う。
(1)実質的な運用の側面に注目し,三権分立主義が採用されていると評価したうえで,行政の権限が大きく立法や司法の行政に対する監視・抑制機能が弱い,いいかえれば三権相互の抑制・均衡が確保されておらず,三権分立主義としては不十分であると評価する。
(2)天皇による統治権の総覧を規定している以上,形式面からいえば三権分立は採用されていないと評価したうえで,実質的な運用面では三権が内閣,帝国議会,裁判所によって担われ,三権の相互独立が確保されていると評価する。
そこで,この2つのパターンに従って解答例を作成してあります。