年度 2016年
設問番号 第3問
テーマ 江戸幕府の大名統制策/近世
A
問われているのは,徳川家康が大船禁止令を出した理由。条件として,当時の政治情勢をふまえることが求められている。
家康の大船禁止令は資料文⑴に説明があるので,その内容を素材として考えたい。
「当時」とは,資料文⑴からすれば「1609年」のことである。徳川家康が征夷大将軍の宣下をうけて江戸幕府を開いたものの,豊臣秀吉の子秀頼が大坂城にいて独自な権威を保っていたため,関ヶ原の戦いで西軍に属したものを含め,豊臣家ゆかりの大名との結びつきを警戒しつつ,家康が諸大名に対してくり返し軍役を課すことを通じて主従関係を形成し,豊臣秀頼を孤立させようとしていた時期である。
そうした時期に,「大坂以西の有力な大名」を対象として「国内での戦争やそのための輸送に用いる和船」を所持することを禁止した,という。
「大坂以西の有力な大名」としては,関ヶ原の戦いで西軍に属した毛利氏や島津氏など,東軍に属したものの,豊臣家ゆかりの福島氏や加藤氏などを具体的に思い浮かべることができるだろう。そのなかでも特に警戒すべき対象は,東軍に属した豊臣系大名である。彼らは領地を加増され,大きな軍事力を保持していた。そこで彼らの軍事力,とりわけ水軍力を削ごうとしたのが,この大船禁止令であった。
B
問われているのは,江戸幕末期,大船禁止令の理解のしかたが当初とくらべ,どのように変化しているか。
これも,資料文を素材として考えていこう。その際,「変化」つまり「時期による違い」に注目したい。
資料文⑴
○禁止の対象である大船=国内での戦争やそのための輸送に用いる和船
≠外洋を航海する船
↑↓
資料文⑶
○大船禁止令を改定する目的
外洋航海が可能な洋式軍艦の建造を推進すること
資料文⑷
○大船禁止令改定に際しての懸念
寛永期の禁止=「当時の対外政策」(鎖国政策)によるもの
→大名が外国と通交,あるいは貿易(「互市」)を行うことを懸念
ここから,徳川家康が大船禁止令を出したのは,外洋航海を禁止するためではなかったにも関わらず,幕末には,家光期の鎖国政策に基づき,外洋を航海し,外国と通交・貿易することを禁止するための施策であったという理解の変化が生じていることがわかる。
なお,この問題から逆に,西国大名が貿易を通じて富強化することが抑制されたのは,鎖国政策の結果であって目的ではないことが理解できるのではないか。
(解答例)
A大坂城の豊臣秀頼を孤立させるため,関ヶ原の戦いで領地を加増された西国の豊臣系大名を主な対象に軍事力を抑制しようとした。(60字)
B当初は外洋航海の禁止を意図していなかったものの,鎖国制形成期に初めて武家諸法度に加えられたこともあり,幕末には,大名が外国と通交・貿易することを禁止するための施策だと理解された。(90字)
≪最初の答案≫
A豊臣家が大坂城を拠点に存在しており徳川家の全国支配が未確立な状況で,西国の大名が軍事力を強化し結集するのを防ぐため。 B当初は大名の軍事力抑制を目的としたが,幕末には外国船と海上で交易するために大船が建造されると考えられ,大名が海外との私的な交易で利益を得て経済力を強めるのを防ぐ目的へと変化した。 |
Aについて。
豊臣家が大坂城を拠点に存在していることと,西国大名が軍事力を強化し結集することへの危惧との関連が説明されていませんが,この二つは関連がないのですか?
Bについて。
大船禁止令は目的が変化したのですか?
そもそも,目的がどのように変化したかが問われていると判断したのは,なぜですか?
ところで,資料文⑵は活用しましたか?
資料文⑷の「その改定の担当者は,「寛永年中」の大船禁止令を,当時の対外政策にもとづいた家光の「御深慮」だったと考え」の部分をどのように判断しますか?
≪書き直し≫
A豊臣政権が大坂城を拠点に残存する中で,外様や豊臣家と関係の深い大名が多かった西国が,軍事力を強化し結集しないため。 B当初は大名の軍事力抑制のための法だったが,幕末には鎖国政策の徹底のために海外渡航や交易を禁じた法と解され,列強の軍事的圧力に対抗するために改定が必要と考えられた。
> A |
AはOKです。
なお,理由が問われても「~ため。」で終える必要はありません。そこは現代文と異なります。
Bについてです。
「列強の軍事的圧力に対抗するために改定が必要と考えられた。」の部分をなぜ書き込んだのですか?
これは,大船禁止令の理解のしかたですか?
なお,資料文⑵⑷の解釈は問題ありません。
≪書き直し2回目≫
B当初は大名の軍事力抑制のための法だったが,幕末には鎖国政策の徹底のために海外渡航や交易を禁じた法と解され,大名が海外との交易で富裕化するのを防ぐこともできると考えられた。
> 「列強の~と考えられた。」の部分は大船禁止令の理解の仕方としては不必要でした。 |
「防ぐこともできる」との表現にひっかかります。
できると理解されていたのではなく,防ぐことも目的だと理解されていたのではないですか。
とはいえ,基本的にOKです。