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年度 1992年

設問番号 第4問

テーマ 幕末・明治前期におけるメディアの発達/近代


問題をみる
設問の要求は、幕末・明治前期において、民衆が情報を得るメディアがどのように展開してきたか。条件として、瓦版・新聞紙条例・電信・別段風説書・横浜毎日新聞の語を参照することが求められている−そのうち瓦版・電信・別段風説書には内容説明が付せられている−。

「参照」することと“答案のなかで使用すること”とは異なるので、設問の形式からすれば必ずしも列挙された語を答案のなかで使用する必要はない。しかし、使用することで「参照」したという事実を示すことができるので、答案のなかで全ての語を使用しておくのが安全である。

対象とされている時期を≪幕末期≫と≪明治前期≫とに分けると、与えられた5つの語句は以下のように配置される。
≪幕末期≫
 瓦版−注(1)では時期が明記されていないが江戸時代の一般的な木版印刷物
 別段風説書(アヘン戦争時〜)
≪明治前期≫
 電信(1871年長崎・上海間)
 横浜毎日新聞(1870年創刊の最初の日刊紙)
 新聞紙条例(1875年)

次に、与えられた5つの語句から、設問でとりあげられている“情報”がとりわけ“何に関する情報”なのかを推測してみよう。
「別段風説書」がオランダ商館長が幕府に提出したものであり、「電信」に関する注(2)に“長崎・上海間の海底電信線”が指摘されていることを考えれば、ここで取り上げられているのが“海外情報”であることがわかる。また、「横浜毎日新聞」は最大の開港場横浜で発行されていることから、“海外情報”にも関連する語句だろうとの想像もつく(横浜毎日新聞は−教科書レベルをこえた知識だが−当初上海方面からの航路による入港予定の商船の記事が中心であった)。
そして「別段風説書」がアヘン戦争時からのものであることからすると、開国の以前と以後とで対比させながら、“海外情報”がどのようなメディア(媒体)を通じて民衆のもとにもたらされたのかを考えていけばよいとの見通しもたつ。

≪鎖国下≫
オランダ風説書を通じて幕府が海外情報を独占
 別段風説書へ変化して報告内容が詳細になったとはいえ速報性に弱い
≪幕末期…ペリー来航以降の対外情勢の激動のなか≫
幕府から海外情報が洩れ、人づてに各地に伝えられた
“注(3)全国各地の幕末期史料の中に別段風説書の写しがよく見られる”
瓦版を通じて、ペリー来航などをめぐる風聞・うわさが街頭での読み売りという形で伝えられた
≪明治前期≫
電信により海外情報の速報性が高まる
横浜毎日新聞など日刊紙の出現で活字メディアが発達→自由民権運動のなかで“新聞=政治的意見を闘わす場”へ
 ←→政府:新聞紙条例で情報・言論の統制

大枠をまとめると、≪幕末期≫“人づて”から≪明治前期≫“活字”へ変化、ということになる。


(解答例)
幕末期には別段風説書を通じて幕府が海外情報を独占したが、速報性に欠け、また民衆へは瓦版を通して風聞として洩れ伝えられるにすぎなかった。しかし、明治期には電信の整備が進むと共に横浜毎日新聞など活字メディアが発達し、海外情報の速報性と伝達量が拡大して情報の民衆への影響力が増加した。そのため、活字メディアが政論主張の場の性格を強めると、政府は新聞紙条例で統制した。