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年度 2009年

設問番号 第3問


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【解答例】
1統帥権とは天皇大権の一つで,大日本帝国憲法で天皇が陸海軍の指揮・統率権をもつと規定されていた。そして,天皇大権は一般的には内閣が輔弼したのに対し,統帥権には内閣も関与しない慣行があり,軍令機関の長である参謀総長・軍令部長が内閣を経ずに帷幄上奏し,輔弼した。
2昭和初期,浜口雄幸立憲民政党内閣が海軍軍令部の反対をおさえてロンドン海軍軍縮条約に調印したことから,統帥権干犯問題が生じた。内閣が編制権に属する兵力量の決定は統帥権と別ものであり,内閣の輔弼事項であると解釈したのに対し,海軍軍令部や野党の立憲政友会は編制権にも統帥権が及び,軍令機関の輔弼が必要であると主張して対立した。内閣は元老西園寺公望らの支持を背景として条約の批准を実現したものの,浜口首相が狙撃される事件につながった。
3陸海軍を解体したうえで,日本国憲法で戦争放棄とそのための戦力の不保持を規定して陸海軍の存在から正統性を剥奪した。
(総計400字)
(別解)1統帥権とは天皇大権の一つで,大日本帝国憲法で天皇が陸海軍の指揮・統率権をもつと規定されていた。他の天皇大権とは異なり,統帥権には内閣も関与しない慣行があり,軍令機関の長である参謀総長・軍令部長が内閣を経ずに帷幄上奏し,輔弼した。2昭和初期,浜口雄幸立憲民政党内閣が海軍軍令部の反対をおさえてロンドン海軍軍縮条約に調印したことから,統帥権干犯問題が生じた。内閣が編制権に属する兵力量の決定は内閣の輔弼事項であると解釈したのに対し,海軍軍令部や野党の立憲政友会は編制権にも統帥権が及び,軍令機関の輔弼が必要であると主張して対立した。内閣は元老西園寺公望らの支持を背景として条約の批准を実現したものの,浜口首相狙撃事件につながった。3陸海軍を解体したうえで,日本国憲法で戦争放棄・戦力不保持を規定して陸海軍の存在から正統性を剥奪した。軍需工場の設備を撤去して,アジア諸国に供与する現物賠償を実施させた。
(総計399字)


【解法の手がかり】
問1 類題:2002年第3問,1991年第3問
問われているのは,「統帥権の独立」について説明すること。条件として,参謀総長・軍令部長(1933年以降は軍令部総長)の果たす役割にも言及することが求められている。
統帥権とは?
○天皇大権の一つで,天皇が陸海軍の指揮・統率権をもつと大日本帝国憲法で規定された。
統帥権の独立とは?
○天皇大権が一般的には内閣の輔弼により行使されるのに対し,統帥権には内閣も関与しない慣行ができあがり,統帥権の独立と称された。
参謀総長・軍令部長の果たす役割とは?
○陸海軍の作戦・計画の遂行については,軍令機関の長である参謀総長・軍令部長が輔弼(帷幄上奏により)

○日中戦争以降,御前会議に出席して国政運営にも強い発言力をもった

問2
問われているのは,「統帥権の独立」の解釈が政治的対立の重要な争点となった事件の経緯。条件として,「統帥権の独立」の解釈の相違に留意することが求められている。
事件の名称:統帥権干犯問題
経緯
○ロンドン海軍軍縮条約の調印=海軍軍令部の反対をおしきる

○政友会や海軍軍令部から統帥権干犯との批判
<背景>陸海軍の編制権をめぐる解釈の相違
 ○内閣の解釈:編制権は内閣の輔弼事項で,統帥権とは別もの
 ○政友会や海軍軍令部の解釈:編制権は統帥権と密接に絡んでおり,軍令機関の輔弼事項でもあり,軍令部の同意が必要

○政府:元老西園寺らの支持もあり,批准を実現(批准は枢密院では行われない)
 →浜口首相が襲撃された

問3
問われているのは,GHQによって実施された,直接的な非軍事化政策の要となる政策を二つあげること。
「直接的な」非軍事化政策なので,陸海軍(軍隊)そのものに関する政策をまずは優先させたい。
○陸海軍(という軍事組織)を解体
○日本国憲法第9条で戦争放棄(戦力不保持)を規定:陸海軍の存在から正統性を剥奪
の2つが不可欠。
その上で,軍人に関連する政策を想起し,戦争指導者をA級戦犯容疑者として裁く,軍人を公職追放した,といったデータが入ってもよい。
また,現物賠償(実物賠償)の実施,に触れてもよい。
現物賠償(実物賠償)は,軍需産業の完全な破壊を通して日本の非軍事化を行うため(と共にアジア諸国の復興・工業化を図るため),日本の軍需工場の設備を解体・搬出し,アジア諸国に移転・譲渡したもので,アメリカのポーレー賠償調査団の報告書(1946.11)をもとに,極東委員会により計画が立てられ,分配比率をめぐって諸国間(特に米ソ間)で対立が生じてやや実施が遅延したものの,47年4月,賠償施設の30%即時取り立てが指令され(アメリカの中間指令),着手されている。
なおこれは,賠償が講和条約などで正式に決まるまでの間,とりあえず実施される中間的措置であるため,中間賠償とも呼ばれる。