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年度 1996年

設問番号 第2問


次の三つの憲法案は,自由民権運動の中で作られた立志社の手になる「日本憲法見込案」,交詢社の「私擬憲法案」の二つの私擬憲法と,明治政府が制定した大日本帝国憲法である。これを読み,下記の問いに答えよ。

〔A案〕
第一条  天皇ハ宰相並ニ元老院国会院ノ立法両院ニ依テ国ヲ統治ス
第十二条 首相ハ天皇衆庶ノ望ニ依テ親シク之ヲ選任シ其他ノ宰相ハ首相ノ推薦ニ依テ之ヲ命スヘシ
第十七条 内閣ノ意見立法両院ノ衆議ト相合セナルトキハ或ハ内閣宰相其職ヲ辞シ或ハ天皇ノ特権ヲ以テ国会院ヲ解散スルモノトス

〔B案〕
第四十一条  国民ハ兵器ヲ貯フルコトヲ得
第四十三条  国民ハ非法不正ニ抗スルノ権理ヲ有ス
第五十四条  国帝ハ行政事務ヲ親裁ス
第九十四条  立法府則チ国会ハ之ヲ一院ト定メ法律ノ定ムル所ニ因テ出ル所ノ議員ヲ以テ組織ス
第九十六条  国会ハ国民ニ代ッテ国事ヲ議定シ及国民安寧ヲ保全ス
第百条    宣戦講和権ハ国会之ヲ掌握ス
第百七十九条 府県令ハ其県人民之ヲ公選ス
第百八十九条 郡区町村ハ自治タルヘシ

〔大日本帝国憲法〕
第一条    大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
第四条    天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
第十三条   天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
第二十九条  日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス

問1 立志社案と交詢社案は,上のA案,B案のいずれか。
問2 交詢社案は,当時明治政府の閣内にあって参議の一人として大きな影響力を持っていた,ある政治家に近い考えを表明していた。それに対し伊藤博文ら明治政府の首脳は危機感を抱いて,この参議を閣外に迫放し,自らの構想にもとづき憲法の制定に乗り出した。
(1) 交詢社案に近い考えを持った参議とは誰か。
(2) その参議を追放した事件とは何か。
(3) 伊藤博文らは,交詢社案のどこが危険であると感じたのか。案の条文を参照して説明せよ(50字以内)。
問3 立志社の憲法草案は,交詢社案と比べても,また後の大日本帝国憲法と比べても,いくつかの特徴を持っている。その特徴を,上の条文を参照しつつ,3つ指摘せよ(100字以内)。
問4 政府の主導権で秘密裏に作られた大日本帝国憲法は,私擬憲法と比べて顕著な特色を持っていた。
(1) 第二十九条は,表現の自由を保障した規定であるが,この保障の仕方は決して十分なものではなかった。その理由を具体的に述べよ(100字以内)。
(2) 天皇の持っていた権限の特徴を,他の私擬憲法と比較して述べよ(100字以内)。


【解答例】
問1 立志社−B案,交詢社−A案
問2(1)大隈重信 (2)明治十四年の政変 (3)君民共治のもとで天皇の統治権が内閣・議会に制限され,首相の閣僚推薦や議院内閣制が規定されていた点。(49字)
問3 君民共治説も天皇主権説も否定し,国民主権を明確にした。そして国民の自衛武装権・抵抗権を保障したこと,一院制の国会を最高決定機関として宣戦・講和権などを与えたこと,住民自治を重視したことなどである。(98字)
問4 (1)自由民権運動のような反政府活動を抑圧するため,「法律ノ範囲内ニ於テ」のみ保障した。そして,すでに制定されていた集会条例などの弾圧法令を否定せず,今後においても表現の自由を制限する立法の余地を残した。(99字)
(2)皇祖神天照大神から万世一系の天皇が統治権を継承してきたことを掲げて国家の主権者としての地位を正統化し,宣戦や講和,条約締結,緊急勅令の発令などの権限を議会の関与なしに行使できる大権として保持した。(98字)