過去問リストに戻る

年度 2023年

設問番号 第3問

テーマ 天保期における江戸の都市政策/近世


問題をみる


問われているのは,⑴のように江戸で寄席が急増した理由。条件として,歌舞伎と対比される寄席の特徴に留意することが求められている。

資料文⑴
時期:1820年から1841年にかけて
寄席の歌舞伎との違い
◦日中だけでなく夜も興行
◦入場料が安い

寄席の急増は,観客(利用する人々)が増加したことに対応したものであることはすぐに判断できるはず。

では,どのような人々が寄席を利用したのか。それについて書かれているのが資料文⑵。
資料文⑵
◦「寄席は歌舞伎などに行けない職人や日雇い稼ぎの者などのささやかな娯楽の場」
つまり,寄席の観客は都市貧民(都市雑業層),出稼ぎなどで農村部から流入してきた人々や棒手振・日用稼ぎをはじめ雑業に従事した貧しい人々であった。
そして,資料文⑷から,そうした人々が増加していたことがわかる。
資料文⑷
◦「江戸の町方人口56万人のうち,28万人余りは日々の暮らしをその日に稼いだわずかな収入でまかなう「その日稼ぎの者」である」
江戸町方の半数がその日稼ぎの貧民だという。

こうした貧民の増加が寄席急増の理由だったと考えられるが,ここでもう一度,寄席の特徴(歌舞伎との違い)に戻り,貧民の増加との対応関係を確認しておこう。
◦寄席→昼だけでなく夜も興行し,安価な娯楽
◦江戸の貧民=その日稼ぎの者→「日々の暮らしをその日に稼いだわずかな収入でまかなう」
その日の稼ぎで日々の暮らしをまかなっていることを考えれば,貧民たちは日中に仕事をしていると想像できる。したがって,昼だけの興行であれば利用できなくても,夜も興行していれば利用可能である。また,わずかな収入しかないのだから,安価であれば利用しやすい。
したがって,その日稼ぎの貧民の増加が寄席急増の理由だったと考えてよい。


問われているのは,町奉行が⑵⑸のように寄席を擁護したのは,どのような事態が生じることを懸念したためか。条件として,江戸に関する幕府の当時の政策,幕府がこれ以前に直面したできごとにふれることが求められている。

資料文のなかで「懸念」が表明されていると判断できるのは⑵と⑶。
資料文⑵:1841年
◦「歌舞伎などに行けない職人や日雇い稼ぎなどのささやかな娯楽の場」が失われる…a
◦「そこ(寄席)で働く人々の仕事も失われる」……b
資料文⑶:1837年(「これより以前」)
◦「例年に比べ米価などが高く」,「仕事の口も少ないことを問題視」……c
◦「さらに状況が悪くなると,職人などは何をするかわからないと懸念」……d
◦「彼らが騒ぎ立てないよう手を打つべきだと述べた」……e
a,b,d,eから,町奉行は打ちこわしの発生を懸念していたと判断できる。

次に「江戸に関する幕府の当時の政策」。
天保の改革での人返しの法と株仲間の解散を思い浮かべることができる。
人返しの法は江戸に流入した貧民を強制的に排除したもので,設問Aで問われた江戸の下層民を抑制しようとする政策である。
株仲間の解散は江戸の物価引下げをねらった政策で,cに関連づく。
両者ともに,江戸の治安を維持することを目的とした政策と言える。字数の制約もあるので,いずれかに触れることができればいいだろうが,資料文⑵が1841年であることを念頭において,株仲間の解散を優先させるのもよい。

そして「幕府がこれ以前に直面したできごと」。
「これ以前」というのがいつを指すのかが曖昧で判断しづらいが,資料文⑶に「これより以前の1837年」とあることを念頭におき,1837年頃のできごとを想起すればよい。
天保の飢饉,そして,そのなかで大坂で大塩の乱が起き,その影響で越後柏崎で生田万の乱,各地で大塩平八郎に共鳴する百姓一揆が起きたこと,である。なお,江戸ではお救い小屋を設けて米や銭を施したため,打ちこわしの発生は防がれた。


追記
 幕府の当時の政策として「風俗の取締」を取り上げてはダメなのかとの質問を受けた。
 よいと思います。ただし,寄席の全廃は「風俗統制」の一環なので,ひと工夫が必要です。つまり,町奉行が幕府(老中水野忠邦)の風俗統制に対して批判的である,という文脈で答案を作成したい。別解で示しておきます。

(解答例)
A江戸ではその日稼ぎの貧民が激増していた。寄席は歌舞伎とは異なり,貧民が仕事を終えた夜も興行し安価なため,人気を博した。(60字)
(別解)江戸ではその日稼ぎの貧民が激増していた。寄席は歌舞伎とは異なり,貧民が仕事を終えた夜も興行し安価なため,人気を博した。(60字)
Bこれ以前,天保の飢饉のなかで物価が高騰し大坂で大塩の乱などが生じていた。当時,幕府は株仲間の解散などにより江戸の秩序回復をめざしており,寄席全廃が打ちこわしを招くことを懸念した。(90字)
(別解)Bこれ以前,天保の飢饉のなかで大塩の乱が起き,その影響が各地に広がった。町奉行は,物価騰貴のなかでの寄席全廃を含む風俗統制策が庶民の不満と打ちこわしの発生を招くことを懸念した。(88字)