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年度 2003年

設問番号 第1問


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【解答例】
1農業全書。宮崎安貞。農書は,豪農層を中心とする識字率の向上を背景として,新しい農業技術を広範に伝達し,農業生産力を向上させるのに貢献した。小農経営が広がると,それに適応した集約型の農業技術を流布させ,さらに商品経済が活発化すると,それに対応した農業経営への転換をはかるノウハウを提供した。
2貞享暦。渋川春海。それまで使われていた宣明暦は平安中期以来のものであり,誤差が大きくなっていたため。
3綿花。米などの五穀よりも収益性が高く,干鰯や油かすなど即効性にとむ金肥を多量に投与することが必要だったため,綿花栽培は商品経済的性格を強くもっていた。さらに,栽培から紡績・織布などにいたる全ての生産工程において分業が成立しやすく,それぞれの工程の製品が商品として流通したため,社会的な分業関係の急速な展開と商品流通の拡大を促すという特性をもっていた。
4麻織物に代わって綿織物が庶民の日常衣料として普及した。
(総計400字)
【解法の手がかり】
問1
まず,「この書物の名前」と「中心的な執筆者の名前」。
一つめの史料末尾に「貝原益軒筆「叙」」とある点に注目すれば,元禄期に成立した農書であると判断できる。そこから,「日本初の刊行農書」かどうかはともかく,「この書物」が『農業全書』だとわかる。執筆者は宮崎安貞である。

次に,近世社会において農書の果たした役割。
「この書物」の果たした役割が問われているのではなく,農書一般に焦点があたっている点に注意しよう。類題として,東大1993年度第1問がある。
○農書には誰にとって必要な,どのような知識が書かれているのか
・誰=農民(百姓)→特にどのような階層?
・知識=有効な農業技術→何にとって有効な?
○宮崎安貞『農業全書』
・小農経営に適合的な農業技術(集約的な農業技術)を網羅的に紹介
○大蔵永常『広益国産考』『農具便利論』など
・それぞれ商品作物の栽培・加工法,農具の紹介という,個別的な,あるいは専門的な内容
・19世紀前半という商品経済が農村にも浸透した状況に対応

問2
まず,「当時」使われていた暦の名称。
問1でみたように,「当時」=元禄期と判断できても,元禄という年号が使われていた時代かどうかまでは判断できない。しかし,ヒントは設問文にある。「その暦の作成」が「改暦」と言い換えられている点である。そこから,5代将軍徳川綱吉期の改暦,貞享暦の作成を想起する。
そして,貞享暦の作成にかかわったのは,渋川春海(安井算哲)。

次に,改暦の背景。
それまで使われていた暦と現実の季節との間に,誤差が大きくなっていたことが書ければよい。

問3
まず,[ c ]に入る適当な作物の名前。
史料によれば,「本朝にも百年以前其たねを伝へ来りて,今普く広まれり」という。つまり,日本で16世紀後半から栽培が始まり,元禄期には河内や和泉,さらに(設問文によれば)三河・伊勢・尾張などでさかんに栽培されている作物である。ここから,木綿(綿花)と分かる。

次に,当代における「木綿」の栽培・生産の特質。
「当代」=江戸時代のみを対象として,栽培と生産とに分けて考える。そして,「特質」とあるので,別の作物,たとえば,稲(米)や麻などと対比して考えたいが,難しい。

○栽培の特質
・肥料の多量投与が必要→即効性にとむ金肥への依存

・自給向けではなく換金性が高い

○生産の特質
・全生産工程を通じて分業が成立しやすい

・それぞれの工程の製品が商品として流通

<影響>社会的な分業関係の急速な展開と商品流通の拡大を促進

問4
問われているのは,木綿が当時の人々の生活にもたらした変化。
「生活」が問われているので,「衣食住」のいずれかを想起したい。

近世以前は麻織物が主流→木綿(綿織物)が庶民衣料として普及