年度 2005年
設問番号 第1問
問2
中世における「旅行者による紀行文」の一例。作者名と旅行の目的も説明することが求められている。
紀行文にはさまざまあるが,「旅行の目的」が求められていることを念頭におけば,おそらく阿仏尼の『十六夜日記』に限られる。
目的をどの程度まで詳しく説明するか,悩むところかもしれないが,最低限,所領相続をめぐる訴訟のために京都から鎌倉へ下ったことが書けておればよいだろう。
問3
江戸時代の「街道における交通の運営方式」。
下線部c)には「幕藩制国家により五街道などが整備された」とあるが,解答を求められている「街道」とは具体的にはいったい何を指すのか。<幕府によって整備された五街道>だけに限定してもよいのか,それとも<幕府によって整備された五街道や脇街道>を念頭におくのか,それとも<諸藩によって整備された街道>も含めて考えるのか。
そのあたりがあいまいだが,教科書記述を念頭におけば<諸藩によって整備された街道>は除外して考えてもよさそうだ。ただし,「江戸幕府は……。」などと運営主体を明記し,江戸幕府による運営方式に主題を限定したことを明らかにしておく必要がある。
次に「運営方式」という問い方。
下線部c)には「整備」について触れられているが,設問では「運営」が問われているので,街道の整備・建設については答案のなかで触れる必要はない。上下分離で考える。
「運営」という表現が用いられているが,一般的にいって「運営」の対象とされるのは組織や機構。ところが,ここでは「(街道における)交通」が運営の対象となっている。問われている内容が了解しにくいところだが,「物事がうまく運ぶようにきりまわしていく」という字義からすれば,
整備主体のねらい・意図がうまく機能・実現するよう,「街道における交通」を処置していく方式
を説明することが求められているものと考えておくとよい。
江戸幕府は五街道を直轄して道中奉行に管轄させた(脇街道も含めるのなら勘定奉行も触れる必要がある):運営主体
幕府や大名らによる公用の通行を優先
→一里塚や橋・渡船場などの施設を整備するとともに,宿駅(宿場)を整備=公用の文書や荷物の継送りのために人足や馬を常備
関所を設け,入鉄砲出女を取り締まる
問4
江戸時代のおける物資輸送で舟運の果たす役割が大きかった政治的・経済的理由
○物資輸送の主流=幕府・大名による蔵米(年貢米)の輸送
○石高制のもと米納年貢,兵農分離のもと貨幣経済の発展した都市に集住→年貢米の換金が不可欠
○城下町を中心とする地方市場の狭さ,そして三都の豪商に対する債務の累積から,中央市場へ廻米
○これゆえ,長距離に及ぶ大がかりな物資輸送が必要とされた。
○しかし,陸上交通では長距離に及ぶ大がかりな物資輸送は難しい。
○なにしろ,各地に橋や渡船場が整えられたとはいえ,江戸の防備・大名の反乱防止という政治的な理由により,大井川などのように橋・渡船が設けられていない河川があったから。
「政治的な理由」はおそらく,最後の事項でよいのだと思うが,思いつきにくいと言える。