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年度 2005年
設問番号 第2問
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【解答例】
1製糸業と絹織物業は,戦争景気のアメリカ向け輸出が拡大したため,造船業は世界的な船舶不足により,それぞれ生産を拡大した。
2第二次大隈内閣は袁世凱政権に対して二十一か条要求をつきつけ,山東省ドイツ権益の継承,南満州・東部内蒙古権益の強化・延長,漢冶萍公司の日中合弁化などを要求した。寺内内閣は段祺瑞政権に対して西原借款を行い,民間では紡績会社が在華紡とよばれる紡績工場を上海や青島に建設した。
3海運業で内田信也などの船成金が続出した。鈴木商店。その経営危機により台湾銀行が巨額の不良債権を抱えることとなり休業に追い込まれた。それを契機として金融恐慌が深刻化した。
4新婦人協会は治安警察法第五条で禁止された女性の政治活動の自由をめざし,女性の地位向上を目的とした。日本農民組合は各地の小作争議を指導し,小作農の地位向上を目的とした。全国水平社は被差別部落の人々が差別と貧困からの自力による解放をめざした。
(総計400字)
(注記)問1の「下線部a)の国内生産を拡大した産業諸部門を3つ挙げて(以下略)」のうち「3つ」の部分は入試当日に訂正として追記されたものだが,「欧米市場向け」の民需に関して3つ産業部門をあげるのは教科書レベルでいうと難しい。鉄鋼や化学,電力に触れた解答例があるものの,それらは国内市場向けに生産を拡大しており,「欧米市場向け」という下線部a)の記述にそぐわない。そこで上記の解答例では,明治後期以降の主要な輸出品の一つ絹織物に触れる形にしておいた。
【解法の手がかり】
問1
下線部a)に「欧米市場向け」とあり,下線部a)の直前には「民需でも」とある。さらに,下線部a)のあとに「綿糸・綿布輸出」とある。これらを参考に産業諸部門を考える。その際,「諸部門」とあることに注目すれば,産業を一つだけを挙げるのではなく,少なくとも二つは挙げておく必要がある。
「製糸業」はすぐに思い浮かぶ。しかし,生糸はアメリカ向けに輸出が拡大したもの(アメリカも戦争景気で好況であったため)。したがって,ヨーロッパ向けに輸出が拡大したものも想起しなければならない。
そこで,まず大戦景気のなかでどのような産業が成長したのかを思い浮かべる。
製糸業,綿紡績業と綿織物業,海運業・造船業,電力産業,化学工業などが浮かぶはず。これらのうち,製糸業,綿紡績業と綿織物業は除外され,さらに「国内生産を拡大」とあることから海運業も除外される。そして,残った産業部門のなかから民需・欧米向け輸出という2つの条件にあうものを考えれば,電力(輸出品ではない),化学(ドイツからの輸入途絶により成長)が除外され,造船業だけが残る。
世界的な船舶不足,海運業の発達を背景として,造船業でも民需向けの生産が拡大していた。
問2
(1)大戦中における「中国への権益要求」
21カ条要求:名称だけでなく内容にも触れておく(山東省権益の継承と南満州・東部内蒙古権益の延長,漢冶萍公司の日中合弁化など)
(2)大戦期から大戦後にかけての「政府・民間による中国への資本輸出」
民間の資本輸出として在華紡は思いつくが,それ以外に満鉄の鞍山製鉄所が出てくるか。
また,政府による資本輸出としては,大戦期から大戦後にかけての時期で政府が中国に対して何か経済的なアクションを起こしたかを考え,西原借款を想起すればよい。
なお,漢冶萍公司の日中合弁については,21カ条要求の内容で触れれば,資本輸出では触れなくともよい。
問3
(1)「成金」の具体例をひとつ挙げる。
「成金」と言われれば,海運業での「船成金」が有名だが,内田信也などの具体的な企業家をあげるのは難しい。
(2)「大戦期に三井物産に匹敵するほど急成長し,その後経営危機に陥った商社」と,その経営危機に起因する「経済的な大事件」
それぞれ,鈴木商店,台湾銀行の経営危機とそれによる金融恐慌の拡大,について簡潔に説明するのがよい。
なお,ここは「金融恐慌」と早とちりしてしまいがち。
問4
「1920〜22年に結成された全国的な社会運動組織」を3つあげ,それぞれの目的を説明する
○新婦人協会
○日本農民組合
○全国水平社
この3つをあげるのが順当なところ。
日本労働総同盟や日本社会主義同盟,日本共産党も思い浮かぶが,日本労働総同盟は「改称」であって「結成」ではないので無理があるし,日本社会主義同盟や日本共産党(再建後の共産党ならともかく)を「全国的な」と形容できるか微妙。