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年度 2016年

設問番号 第1問


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【解答例】
1中国の律令は,刑罰などを定めた律,官制と人民負担など行政上の規則を定めた令の2つから成り,皇帝が統治を行うために必要なことがらを定めた法典である。
2受領が国内統治をゆだねられたため,郡司がそれまで果たしてきた,徴税などの地方行政の実務が国衙の諸機構に集中し,そのため郡司の地位は低下し,郡家が衰退した。
3守護の権限を大犯三カ条に限定し,親の悔い返し権を認めて親の意思を幕府の決定よりも優先するなど,鎌倉幕府と御家人の果たすべき役割と限界を明示することにより紛争を公正に裁く基準を示すとともに,御家人社会を秩序づけようとした。効力は鎌倉幕府の支配領域に限られた。
4公事方御定書。合理的な司法判断を進めるために定められたが,三奉行などだけが閲覧できる内規にすぎず,相対済し令が金銭貸借に関する訴訟を幕府で受理せず,解決を民間社会にゆだねたのと同じく,人間関係を法により秩序づけようとする姿勢がみえない。
(総計400字)

(別解)
1中国の律令は,刑罰などを定めた律,官制や人民負担など行政上の規則を定めた令から成り,皇帝による統治を補佐する官僚が準拠する法典であった。
2中央政府の指示・監督に基づき国司が地方行政にあたり,郡司が実務を担う体制から,国司が中央政府から国内統治をゆだねられ,租税納入を請負う体制へ変化したため,地方行政における郡司の役割は後退し,受領の統制下に従属的に編成された。
3公正な裁判基準を示すため,守護の権限,親の悔い返し権の承認などを定め,御家人社会を秩序づけようとした。効力は鎌倉幕府の支配領域に限られた。
4公事方御定書。判例に基づいて合理的な司法判断を行う基準を定めたものの,三奉行などだけが閲覧できる内規にすぎず,相対済し令を出して金銭貸借に関する訴訟を受理しなかったのと同じく,幕府の司法政策は法により人間関係を秩序づけるものではなく,官僚が裁判を迅速に処理するための便宜をはかる性格が強かった。
(総計399字)


【解法の手がかり】
問1
問われているのは,(中国の)律令の法典としての内容や特徴。
下線部⒜は「中国の律令」なので,中国の律令について説明する必要があるが,日本史選択者に中国の律令を説明することはできない。そこで,「中国の律令」を模倣して制定された,日本の律令に焦点を合わせて考えればよい。
①法典としての内容
律=刑罰などを規定した刑罰法
令=官制や人民の負担など行政上の規則を定めた行政法
②法典としての特徴
全国に適用される法典という意味では,近代の憲法と対比するとよい。
近代の憲法が,個人の権利を尊重することを意図して国家権力を制限する法典であったのに対し,古代の律令は,皇帝(日本の場合は天皇)が統治を行うための法典であり,意図や作用のしかたが異なる。

問2
問われているのは,10世紀における体制の変化にともなう,地方支配における郡司の役割や地位の変化。
10世紀における体制の変化とは,受領に国内統治がゆだねられたこと。
これにともない,地方支配における受領の権限が強化され,郡司がこれまで果たしてきた役割は国衙に集中し,それにともなって郡司の地位は低下,郡家が衰退する。

問3 類題:2008年第1問
問われているのは,御成敗式目の①立法趣旨,②内容,③効力をもつ範囲。
①立法趣旨
承久の乱にともなって鎌倉幕府の支配領域が畿内・西国で大きく広がった結果,公家・寺社などと御家人との紛争が激しくなり,そのうえ,寛喜の飢饉にみまわれた。こうしたなかで,鎌倉幕府ならびに御家人の果たすべき役割と限界を明示することで,紛争を公正に裁く基準を示すとともに御家人社会を秩序づけようとした。
②内容
 守護の権限を大犯三カ条に限定
 当知行年紀法
 女人養子
 強い親権を認める=親の悔い返し権を承認するなど
これらのうち,どれかを書いておけばよい。 ③効力をもつ範囲
鎌倉幕府の支配領域に限る

問4
問われてるのは,江戸幕府の司法政策の特徴。条件として,1719年に出された法令とあわせて考えることが求められている。
司法制度に注目すると,
江戸幕府では行政・立法・司法が渾然としながら,訴訟は寺社奉行・勘定奉行・町奉行が地域ごとに分担したように,対象ごとに職務を分担する体制がとられた
と指摘することができる。答案のなかでこの点に言及するのは構わないが,この指摘だけでは設問の要求に応えたことにはならない。
問題は司法政策である。
ここで考える素材として取りあげられているのが,空欄⒟=公事方御定書と「1719年に出された法令」=相対済し令である。
公事方御定書は,判例にもとづく合理的な司法判断を進めるために定められた法典だが,一般に公開された法典ではなく,三奉行などだけが閲覧できる内規。
相対済し令は,金銭貸借に関する訴訟を受理しないと命じた法令で,その解決を民間社会の慣習にゆだねたもの。
この2つの法令にみられる共通点は,官僚が裁判を迅速に処理するための便宜をはかる政策であり,人間関係を法により秩序づけようという姿勢がみられない点である。