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年度 2008年

設問番号 第2問

テーマ 中世の一揆と起請/中世


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問われているのは,図のような署名形式が,署名者相互のどのような関係を表現しているか。

図は資料文(4)に関連するものなので,そこから時代状況を確認しよう。
「1557年」すなわち16世紀半ばという時期,「安芸国の武士」という説明から,とりあえずは国人一揆を想起できる。国人一揆が対等な資格で結ばれたものであることは知識として持っているはずなので,署名者相互の対等な関係,平等性を表現しているものと判断できる。
ただし,これだけだと1行以内だと言っても,短すぎるかもしれない。それならば,あえて対等な関係を示す形式を採用しているという点に注目し,現実の階層差に言及しておけばよい。

なお,この図は毛利氏と安芸国国人との傘連判状で,毛利元就,吉川元春,阿曽沼広秀,毛利隆元,宍戸隆家,天野元定,天野隆誠,出羽元祐,天野隆重,小早川隆景,平賀広相,熊谷信直の12名が署名している。ちょうど図の真上にあたる部分を注意深く見れば,「元就」と書かれているのが判読できるはずである。


問われているのは,一揆の結成により参加者相互の関係がどのように変化したか。
「変化」が問われているのだから,結成以前(ア)と以後(イ)とを対比したい。

資料文は全て一揆に関連するが,一揆の結成による変化に言及しているのは,(1)と(3),(4)である。
資料文(1)=南北朝期・九州五島の武士たち
「当事者との関係が兄弟・叔父甥・縁者・他人などのいずれであるかにかかわりなく,理非の審理を尽すべきである」

ア:当事者との関係が兄弟・叔父甥・縁者・他人などのいずれであるかにより,訴訟の審理が影響されていた
イ:当事者との関係のいかんにかかわらず訴訟の審理が行われる=理非に基づく裁判を実現 → 秩序維持をめざす

資料文(3)=応仁の乱頃・ある荘園の荘民たち
「成年男子がひとり残らず」集まって「「京都の東寺以外には領主をもたない」ことを誓い合った」

ア:荘民が個別的に領主(あるいは主君)を持っていた,もしくは東寺による支配を脅かす勢力(武家勢力)が領主の地位をねらっていた
イ:荘民と東寺以外の勢力(武家勢力)との個別的な関係が排除
  →東寺以外の勢力(武家勢力)の荘園に対する介入を排除することにつながる

資料文(4)=戦国末期・安芸国の武士たち
「今後,警告を無視して軍勢の乱暴をやめさせなかったり,無断で戦線を離脱したりする者がでたら,その者は死罪とする」と誓約
ここから推論できるのは,誓約書を交わした12人の武士たちがこれまで共同で軍事行動をとっていた,ということである。共同で軍事行動をとっていたからこそ,軍勢の乱暴や戦線離脱が問題となるのである。さらに,「警告を無視して軍勢の乱暴をやめさせなかったり」との表現に注目しよう。この表現から,乱暴を働くものと想定された「軍勢」とは,誓約書の署名者ではなく,その署名者たちが擁している軍勢すなわち家臣団であることが分かる。つまり,一揆の参加者は,みずからの家臣団に対する処罰権を参加者全員で共有している,言い換えれば,一揆に譲渡しているのである。

ア:軍勢の乱暴や無断での戦線離脱が生じていた
イ:参加者の個別的な家臣団に対する処罰権が制限される

これらの共通点を抽出してこよう。
○個別的な利害が優先される・相互に独立性が強い
↓<変化>
○個別的な利害や権利が抑制・制限され,全体秩序が優先されている


問われているのは,中世の人々が「神」と「人」との関係をどのようなものと考えていたか。
資料文では(2),(3),(4)が「神」に言及しているので,これらを参考に考えていこう。

資料文(2):守護大名らの一味=室町幕府の新首長の決定
神前でクジ引き→「神慮により武家一味して」

資料文(3):荘民の一揆=秩序の確保
鐘をつくことにより「その場に神を呼び出す」→神前で誓約

資料文(4):戦国期の武士たちの一揆=秩序の確保
誓約書の末尾に「八幡大菩薩・厳島大明神がご覧になっているから,決して誓いを破らない」との記述
→誓いを破ったら何が起こると推測できるか? おそらく神罰である。

これらから分かることは,以下の通り。
資料文(2)と(3)→集団がある合意を行ったり,秩序を成り立たせるための媒介として「神」が利用されている。
資料文(3)→「神」は「人」によって呼び出される。
資料文(4)→「神」のもとに秩序維持に対する強制が確保されている。


(解答例)
A署名者相互の現実の階層差を超えた対等な関係を表現している。
B参加者相互に独立性が強く,個別的な利害が優先される関係から,個別的な利害を抑制し,全体秩序を優先させる関係へ変化した。
C人にとって神は,合意や秩序を成立させる媒介として呼び出され,神罰という強制力によりその維持を保障する存在であった。