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年度 2011年

設問番号 第3問

テーマ 江戸時代前期における城普請役とその意義/近世


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A 問われているのは,幕府が藩に課した城普請役が,将軍と大名の関係,および大名と家臣の関係に「結果として」与えた影響。条件として,負担の基準にもふれることが求められている。

城普請役とは,「江戸幕府は各藩に,江戸城や大坂城等の普請を命じた」,「幕府が藩に課した」とあることから分かるように,将軍が大名に課した奉公(のひとつ)である。そして,問題での設定時期は「17世紀前半」,つまり幕藩体制の形成期である。
ここから,合戦がほぼ終焉した時代にあって,城普請役は平時における軍役に準ずる奉公(負担)であり,将軍と大名との主従関係を形成・確立させるために課されたものである,と判断できる。そして,この目的は結果として実現し,将軍と大名の主従関係は安定していく。

では,大名と家臣の関係,という側面についてはどうか。
資料文(2)に「家臣を普請に動員し,その知行高に応じて普請の費用を徴収した」と書かれているので,大名に課された負担(城普請役)が家臣へと転嫁されていることが分かる。大名は,幕府からの城普請役負担を家臣に分担させることを通じて,大名と家臣との主従関係の安定をはかっていった,と言える。
ところで,「城普請役をつとめることが藩の存続にとって不可欠であることを強調して家臣を普請に動員」との表現は,何を意味するのだろうか?
幕府から課された負担をつとめることが,「大名にとって」将軍の従者としての地位を存続させていくうえで不可欠な行為であること,は言うまでもない。ところが,ここは「藩の存続にとって」と書かれている。ここでの「藩」とは大名家(大名とその家臣団)総体を示す表現ととれるので,大名とその家臣が,幕府への奉公を協同してつとめることによって,藩=大名家を協同してつくりあげ維持するという意識を家臣のあいだに浸透させる効果があった,と推論することができる。
以上から,大名と家臣の主従関係を確立・安定させるとともに,協同して藩を担うという意識を浸透させた,とまとめることができる。ある受験生は「同じ負担に対する大名と家臣の一体感を高め,藩意識を強めた。」と書いたという。良い判断だと思う。
なお,この藩としての協同性まで触れられずとも,大名・家臣間の主従関係の確立・安定という効果をもたらしたことが説明できれば,問題ないだろう。

最後に「負担の基準」である。
資料文(1)に「各藩の領知高をもとにして」,資料文(2)に「その知行高に応じて」とあることから,負担の基準が石高であることはすぐに判断できる。


問われているのは,城普請が17世紀の全国的な経済発展にもたらした効果。

まず,資料文のなかから「全国的な経済発展」に関連しそうな記述を抜き出してみよう。
資料文(3)
◎「巨大な石が遠隔地で切り出され」            …a
◎「巨大な石が」「陸上と水上を運搬され」         …b
◎「巨大な石が」「緻密な計算に基づいて積み上げられた」  …c
◎「多様な技術を持つ人々が動員された」          …d
資料文(4)
◎「ある藩の家臣が」「巨石を,川の水流をたくみに調節しながら浜辺まで運んだ」…e
◎「この家臣は,藩内各所の治水等にも成果をあげていた」           …f

まず,dからa・b・cの工程には,それぞれ対応する技術を持つ人々が作業にあたっていたことがわかる。
aは採石
bは陸上・水上の運搬
cは石の加工や石積み,測量
これらのうち,陸上・水上の運搬(b)という技術は,そのまま,物流(一般的な商品の運搬)に転用できる。採石(a)という技術は,掘削に関わるものと考えれば,灌漑施設の開削への転用が可能だろう。そして,測量技術(d)は,さまざまな土木技術として転用できる。
次に,資料文(4)では,城普請で用いられたeの技術が,同時に一般的な「治水等」の技術として用いられていたこと(f)が記されている。

以上から,
◎陸上・水上交通つまり物流の基盤が整う。
◎治水が進み,さらに灌漑施設の開削などへ技術が転用されることにより,河川敷や海岸部などの大規模な耕地化が可能となり,耕地面積の飛躍的な拡大につながる。
という2つの効果があったと判断できる。


(解答例)
A城普請役は平時の軍役に準ずる奉公として石高を基準として課された。その結果,将軍と大名,大名と家臣の主従関係が確立し,大名・家臣が藩として協同し,幕府に服従するという体制が整った。(90字)
(別解)A城普請役は,合戦がほぼ終焉した時代にあって将軍が大名に課す中心的な奉公であり,領知の石高を基準として賦課され,大名は石高を基準として家臣に転嫁した結果,主従関係の確立が進んだ。(89字)
B陸上・水上交通が整備されて物流の基礎が整うと共に,治水の進展とその技術の転用により河川敷などの大規模な耕地化が進んだ。(60字)