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年度 2022年

設問番号 第1問

テーマ 律令制下の命令伝達/古代


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設問の要求は,中央政府から諸国に命令を伝えるときに,都から個別に使者を派遣しない場合にとられていた方法。

教科書レベルでは知識がなく,資料文から読み取ったデータをもとに答えていけばよい。
資料文⑴
◦文書が用いられた
◦全国一律に同じ内容を伝える場合
 あわせて8通の文書を作成→畿内や七道の諸国に伝達 ……①
 受けとった国司はそれを写しとり,国内で施行したものとみられる ……②
資料文⑵
◦中央政府が出雲国に宛てて文書を発給したケース
 伯耆国を経由して出雲国に到着 ……③
◦出雲国を経由して隠岐国や石見国に文書が伝達されることもある ……④

まず,資料文⑵が「都から個別に使者を派遣する場合」にあたるかどうかを確認したい。
資料文を読む限り,文書の発給・伝達については書かれているものの,たとえば出雲国に向けて「使者」が派遣されたかどうかは不明である。
したがって,これは「個別に使者を派遣した」とは言い切れず,「都から個別に使者を派遣しない場合」に含めて問題ないと判断できる。

というわけで,資料文⑴・⑵の両方をてがかりに考えていけばよい。
①より
8通の文書が作成されるということから、畿内や七道という官道に沿った広域行政区画ごとに文書が1通ずつ作成され,広域行政区画ごとに送られたと推論できる。
③や④より
伯耆→出雲→隠岐や石見
と文書が伝達されているので,先程の推論が妥当であることがわかる。
そして②では,国司が受けとり,その文書を写しとったうえで次の国へ送っていると推論されている。
つまり,広域行政区画ごとにそれぞれの国府を経由しながら伝えられたと考えてよい。

設問の要求は,諸国ではどのようにして命令が民衆にまで周知されたと考えられるか。条件として,具体的な伝達方法に注意することが求められている。
これも知識がなく,資料文から読み取ったデータをもとに考えていけばよい。参考になるのは資料文⑶・⑷である。

資料文⑶
◦郡司の命令が記された木札
 国司からの命令が引用されている ……⑤
 管轄下の役人への指示=その内容を道路沿いに掲示・村人たちに諭し聞かせること ……⑥
 一定期間,屋外に掲示されていた(発掘された木札にある痕跡から判断) ……⑦
資料文⑷
◦村落での農耕祭祀の日 ……⑧
 酒や食事が用意される
 村の成人男女が集合すると「国家の法」が告知される ……⑨
 告知後に宴会が行われる

⑤より
国司が中央政府から受けとった命令を民衆に伝達する際,郡司が伝達を仲介していたことがわかる。
さらに,⑥から
郡司は管轄下の役人(里長と判断してよい)を通じて民衆への周知を図ろうとしていたことがわかる。

次に,命令を伝達する方法には次の2つがあることがわかる。
⑥と⑦から
まず道路沿いに一定期間,命令を記した木札を掲示し,そのうえで内容を村人に諭し聞かせるという,人通りの多さを利用した周知方法
⑧と⑨から
村落の農耕祭祀で村人が集まる際,宴会が始まる前に口頭で告知するという,共同体としての結びつきを利用した周知方法

以上をまとめればよい。


(解答例)
A中央政府は畿内・七道ごとに文書を作成して官人に持たせ,官道を使って国府を順々に回らせた。各国では国司が文書を書写した。(60字)
(別解)畿内や七道という広域行政区画ごとに1通の文書が作成され,官道に沿って各国の国府を継送られ,受けとった国司が写しとった。
B国司から郡司に命令が伝えられ,郡司は管轄下の役人を通じて周知させた。役人は人通りの多い道路沿いに一定期間,命令を記した木札を掲示した上で読み聞かせたり,村の共同体としての結びつきを利用し,農耕祭祀の場で口頭で告知したりする方法で周知した。(120字)