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年度 1976年

設問番号 第3問

テーマ 近代における金融制度の変遷/近代


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(A)
設問の要求は,安政の五か国条約で同じ金属でつくられた内・外の貨幣は同量で交換すると定めた結果,どのような事態が生じたか。

「内・外の貨幣」が金貨・銀貨を指すことに気づけば,金流出について説明すればよいことがわかるだろう。

(C)
(オ)
金に対して銀の価格は低下傾向にあったのだから,金本位制国に対しては実質的な円安であり,輸出に有利である。

(D)
設問の要求は,金本位制の採用が日清戦争の勝利によって可能となった理由。

清から賠償金を獲得し,その一部を「兌換のための正貨準備」にあてることができたためである。

下関条約では,清から賠償金として庫平銀2億両(約3億円)の支払いを受けるものと規定されていたが,日本側はその受取地をロンドン,支払通貨をポンドとすることを要求し,清もそれを了承した。そして,清はパリで外債を募集して資金を調達し(フランスとロシアの銀行に依存),ロンドンで日本側に支払った(→日本はそのポンドで金や金貨,外貨建手形を購入した)。
この賠償金は陸海軍備増強や重工業基盤形成などの支出にあてられたが,5%が残額として積み残されており,それが正貨兌換の準備金に当てられた(その3分の2は在外正貨としてロンドンにおかれた)。また支出分の多くは,事実上,ロンドンなど海外の金融中心地で輸入代金の決済にあてられたものの,国内で支出される限りは日本銀行券で決済されるわけだから,その分だけの正貨は日本銀行の兌換準備に積み増しされることになった。

こうして日清戦争賠償金の一部を正貨兌換の準備金にあてることで,日本は金本位制への移行が可能になったのである。

なお,
金本位制の採用が課題となったのは,1880年代後半以降に綿紡績業で産業革命が進展した結果,イギリス領インド(1893年に金本位制へ移行)からの綿花輸入が増加し,さらに重工業が未発達ななかでの産業革命の展開により機械類の輸入が増加して,貿易収支が慢性的な輸入超過に転換した段階でのことである。とりわけ,1890年代になると銀価格が急激に下落し,それにともなって金本位制地域(インドやイギリス,アメリカ)との間の為替相場は下落した。そのことは,輸出促進・輸入抑制という側面からはプラス効果をもったものの,綿花や機械類などの輸入価格が上昇するというマイナス効果ももたらした。そうしたなかで,1897年貨幣法制定により金本位制を採用することで,インドやイギリス,アメリカとの間の為替相場を安定させるとともに,外資導入の環境を整えたのである。

(E)
(ア)
→文明開化は日清戦争以前のことがら。
(イ)
→「佐渡金山」が官営だった。
(エ)
→「日貨排斥運動のために,対中国輸出が停滞をつづけ」たのは第一次世界大戦後のこと。
(オ)
→日露戦後に資本輸出が始まるものの(南満州鉄道株式会社の設立など)、本格化するのは第一次世界大戦以降のこと。

(F)
設問の要求は,第一次世界大戦後の日本銀行券の膨張傾向が貿易の動向にどのような影響を及ぼしたか。

次の2点を確認しておくことが必要である。
(1)日本銀行券が膨張したらどういう事態が現象するのか。
(2)恐慌・不況の救済のために日本銀行券が膨張する傾向にあったというのだが,そのことは経済界にどのような影響を及ぼしたのか。

(1)について。
通貨流通量が増加するのだから,相対的に通貨価値が下落する。つまり,国内物価はインフレ傾向を示すことになる。このことは日本製品が国際的に割高になるということだから,輸出に不利となる。

(2)について。
戦後恐慌や震災恐慌にみまわれた経済界を救済するため,日本銀行が市場に供給する通貨を量的に拡大したのだが,果たして効果はあったのか。

短期的にみれば,経済の破綻を防ぐことができたのだが,あくまでも一時的に防止することができたにすぎなかった。

そもそも,第一次世界大戦中に日本経済が空前の繁栄を享受できたのは,工業の国際競争力が向上したことの結果ではなく,第一次世界大戦という非常事態の発生にともなう世界市場の構造変化によるものであった。したがって,第一次世界大戦が終結してヨーロッパ諸国が復興にむかえば,日本経済の発展にとってのプラス要因は消滅してしまう。そういう状況のもとで日本経済がさらなる発展を追い求めるのであれば,市場構造の変化に対応した事業の再構築,生産性の向上をはかり,工業の国際競争力を育成する努力を積み重ねる必要があった。
ところが,戦後恐慌以降における日本銀行券の膨張傾向は,各企業(とりわけ大戦中に急成長した成金企業)の経営改善を遅らせ,大戦中に過大に膨張した経済界の再編を緩慢なものにしてしまった。つまり,通貨膨張を背景とした銀行の不良企業に対する過剰な追加融資が,恐慌のなかで淘汰されるはずの生産性の低い不良企業を存続させる結果を招いてしまったのであり,いいかえれば,工業の国際競争力が不足した状態を改善させることなく,持続させてしまったのだ。

(G)
(イ)
→アメリカも1933年に金本位制を停止した。また生糸は,世界恐慌の影響と人絹(化学繊維)の発達により,輸出高を大幅に減らした。


(解答例)
(A)内外での金銀比価の違いから金が流出した。
(B)新貨条例
(C)オ
(D)清からの賠償金を兌換準備にあてたため。
(E)ウ
(F)国際競争力の不足とインフレ傾向とにより輸入超過が増大した。
(G)イ