過去問リストに戻る

年度 1989年

設問番号 第2問

テーマ 元寇後の日元貿易/中世


問題をみる
(C)
設問の要求は、元寇後の日元貿易。
条件として、(a)問題文をふまえること、(b)日明貿易との関連にも注意すること、が求められている。

日元貿易の内容・特徴を確認しておこう。
まず、日宋貿易に共通する特徴として
 (1)正式な国交はなかったものの、
 (2)民間商人による私的な貿易が活発−中国を中心とする東アジア通商圏(民間貿易のネットワーク)のなかに組み入れられていた−
また、設問(B)で問われているように
 (3)鎌倉・室町両幕府も貿易船を派遣して寺院の修理造営費用を調達(建長寺船や天竜寺船など)
さらに、中国だけでなく朝鮮も対象としていたが、
 (4)倭寇(日本人を中心とする海賊集団=武装商人集団)がさかんに活動

次に、条件について。
(a)問題文のデータ。
韓国沖から引き上げられた難破船は、京都の東福寺の修理造営の費用を調達するために中国に派遣された貿易船で、莫大な中国産の陶磁器、中国の銅銭、紫檀などの貴木・胡椒などの香料を積んでいた。
ここからは、寺院の修理造営のための資金を得るために幕府・朝廷が貿易船を派遣したというデータ(→(3))以外に、
 (5)中国から陶磁器や銅銭などを輸入していた
という日元貿易の内容に関するデータを引き出すことができる。これは日明貿易に共通していることがわかる。

(b)日明貿易との関連。
“日明貿易との対比”ではないから“相違点”を指摘するのではなく“共通点”を指摘しておきたい。
まず(2)に関連して。
日元貿易は私的な貿易であるのに対し、日明貿易が国家間の公的な貿易であるという相違点はあるものの、日明貿易も民間レベルでの活発な貿易活動・中国を中心とする東アジア通商圏を前提としている点では共通している。
次に(3)に関連して。
建長寺船や天竜寺船は寺院の修理造営費を調達するために派遣されているが、その内容として新たに次の2点を指摘できる。
●幕府公認の貿易船(公許貿易船と称される)
●民間貿易の利益に着目した(民間貿易の利益を吸収しようとした)
これに対して日明貿易は
○中国への渡航船を日本国王=将軍派遣の遣明船に限定(中国皇帝から与えられた勘合を所持)
○そのことを通じて幕府が貿易の利益を独占
という特徴をもち、建長寺船のような公許貿易船の延長線上に日明貿易があることがわかる。

なお、(4)の倭寇は“私的な貿易が活発”の一例として挙げてもよい。



(解答例)

銅・刀剣(・硫黄)

建長寺船

元寇後も元との正式な国交はなかったが、僧侶や商人がさかんに往来し私的な貿易が活発だった。鎌倉・室町両幕府も貿易の利益に着目して公認の貿易船を派遣し、中国産の銅銭や陶磁器を輸入したが、こうした貿易の延長線上に日明間の勘合貿易が展開する。
【添削例】

日元貿易は私貿易で、主に寺社の修築・造営のために貿易船が派遣され、国内の需要に対応して陶磁器・香料・銅銭などが輸入された。幕府公認の貿易船も生まれ、後の公貿易である日明貿易の原型となった。

基本的にはOKですが,
> 主に寺社の修築・造営のために貿易船が派遣され
というのは,“幕府公認の貿易船”のパターンであり,日元貿易がそうした貿易船ばかりで担われていたわけではない(例えば“倭寇”も日元貿易を担い手である)。したがって,この説明は「幕府公認の貿易船も生まれ」という部分の説明として表現しておくのが適当。