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年度 1995年

設問番号 第4問

テーマ 近代における女性の地位の変化/近現代


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設問の要求は,5つの問題文中で歴史的事実の説明として誤ったものを2つ指摘し,訂正すること。
(1)家督相続は男子,なかでも(嫡出の)長男が優先された。
(4)選挙権は女性には認められていない。


設問の要求は,大日本帝国憲法の時代(1889年〜1947年)における女性の地位とその変遷。条件として(a)問題文を参考にすること,(b)時代背景に留意することが求められている。

●明治民法…地位が低い・家に従属・法的に無能力と規定(←(1))
●産業革命:労働力として社会進出(女性は繊維産業の主要な労働力)
 →不十分ながら保護(←(2)):女性問題が政治問題として取り上げられるようになった(他の事例として廃娼問題)
●大正デモクラシー:政治参加→政治活動の自由は部分的に得たが(←(3)),参政権は得られず(←(4))
●戦時動員:戦争協力体制への編成=婦人運動の弾圧→社会進出の促進
●戦後改革:婦人参政権の実現

問題文を参考にするだけでは1920年代までの過程しかフォローできない。1930年代〜40年代の動向,とりわけ戦時動員のなかでの女性の社会進出と戦後改革のもとでの婦人解放についても説明することを忘れないで欲しい。ただし,民法改正については新憲法のもとでのことなので記述する必要はない。


(解答例)

(1)家督相続は男子が優先され,長男が相続するものとされた。
(4)25歳以上の男子に選挙権を認めたが,女性には認められていない。
B封建的な家制度のもと、女性は家に従属する存在であった。しかし,資本主義の発達にともなって繊維工業の労働力として社会進出が進むと,劣悪な労働条件下の女性の保護が政治問題化し,さらに大正デモクラシー期には政治活動への参加が一部承認された。十五年戦争期には婦人運動は抑圧されたが,勤労動員により社会進出が促進され,敗戦後,GHQの指令により婦人参政権が実現した。
【添削例】

≪最初の答案≫

A (1)家督を相続できるのは男子のみであった。
(4)選挙権を認められたのは男子のみであった。

B戸主権を重んじる民法のもとで女性の地位は低く,産業革命期には劣悪な条件で繊維産業に従事していた。その後,大正デモクラシーの高まりのなかで女性解放運動も活発化し,新婦人協会などの女性の政治活動の自由を目指す組織も創設されたが参政権を獲得することはできなかった。太平洋戦争期には,婦人運動は抑制されたが,敗戦後の憲法改正により,男女平等が実現された。

> (1)家督を相続できるのは男子のみであった。
家督相続は女子も場合により可能でしたが,男子,なかでも嫡出の長男が優先されたので,
ちょっと表現に注意しましょう。

> B戸主権を重んじる民法のもとで女性の地位は低く,産業革命期に
> は劣悪な条件で繊維産業に従事していた。その後,大正デモクラシ
> ーの高まりのなかで女性解放運動も活発化し,新婦人協会などの女
> 性の政治活動の自由を目指す組織も創設されたが参政権を獲得する
> ことはできなかった。太平洋戦争期には,婦人運動は抑制されたが
> ,敗戦後の憲法改正により,男女平等が実現された。

全体的にはOKなのですが,いくつか難点があります。

まず,「大日本帝国憲法の時代における」との時期的な限定がありますから,
> 敗戦後の憲法改正により,男女平等が実現された。
の部分は余計です。設問を読んでいないと判断される可能性があります。

次に,設問で問われているのは「女性の地位とその変遷」ですよね。ところが,「憲法改正により男女平等が実現された」という部分をカットしてしまうと,地位の変遷についてはほとんど説明されていないように思えます。
大正デモクラシーのもとでの女性解放運動について表現してますから(あとで「婦人運動」との表記を使っているが,両者が同一のものを指す表現なのであれば同じ表記を用いること!),それなりに変遷については説明されているのですが,「(法的)地位」という点にこだわるなら“限定的であれ政治活動の自由を獲得したこと”は明記しておいてよい。

さらに,君は「参政権を獲得することはできなかった」と書いていますが,婦人参政権獲得は1945年12月。敗戦後であるとはいえ大日本帝国憲法下でのことです(緑本の解答例では「婦人参政権の獲得(中略)は戦後の新憲法を侍たねばならなかった」とあるが,これは事実誤認)。これが欠落しているのは致命的です。
(個人的には戦時体制下の勤労動員による社会進出の促進についても触れたいと思うのですが,これはやや難しいですね)

≪書き直し≫

B明治憲法下では戸主権の強い家制度がとられており,女性の地位は低かった。繊維産業の産業革命期には,女工の劣悪な労働条件が問題化したが,工場法による保護も不徹底に終わった。その後,大正デモクラシーが高まる中で婦人運動が高まり,女性の政治参加が認められたが,参政権獲得は実現しなかった。戦争期には婦人運動は弾圧され,戦後になって初めて女性の参政権が認められた。

設問に“以上を参考にし”・・・説明せよ。とありますが,この“以上を参考にし”っていう条件はどこまで従ったらいいんでしょうか?
もしかしてそんなに重要視されてない条件なんでしょうか。

OKです。

なお,
> 設問に“以上を参考にし”・・・説明せよ。とありますが,
> この“以上を参考にし”っていう条件はどこまで従ったら
> いいんでしょうか?
> もしかしてそんなに重要視されてない条件なんでしょうか。

基本的には「参考にする」ことが不可欠です。
ただ,「参考にする」というのが一体どういうことなのかといえば,これはけっこう幅のある表現ですから,とりあえず,資料文(1)〜(4)で扱われている素材と設問Aの考察のなかで判明したことがら(具体的には資料文(4)を訂正するなかで気づくはずの「敗戦後の婦人参政権実現」)は答案のなかに活かすとよいでしょう−資料文に書かれている内容をどの程度活かすのかは微妙な問題ですね(苦笑)−。あとは,資料文で示された素材だけでは不足していると判断したならば,それも追加して答案を作成すればいいわけです。

なお,この問題の場合,「資料文を参考に」ではなく「以上を参考に」とあります。先にも書いたけれども,設問Aを解くなかで「敗戦後の婦人参政権実現」というデータに気づくはずなので,それも答案に活かしましょうという指示が,その「以上を」という箇所に含意されているように読めます。