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年度 1998年

設問番号 第1問

テーマ 律令制〜平安後期の地方行政制度の変化/古代


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設問の要求は、国司の下で地方行政の実務を遂行した現地の役人について、(1)役職、(2)任じられた人々を、奈良時代と平安時代後期とにわけて明らかにすること。
奈良時代
(1)郡司 (2)もと国造などの地方豪族(在地の豪族)
平安時代後期
(1)郡司・郷司・保司 (2)(新興の)開発領主
平安後期について、国衙の実務をになった役人(在庁官人)も書くべきかどうか、迷った人がいるかもしれない。しかし、問題文で「現地の役人について、奈良時代のあり方と平安時代後期のあり方とを比較すると、外形的には似たように見えるところもある」と表現されていることからすれば、在庁官人ではなく郡司・郷司・保司のみを答えるのが適切である。


設問の要求は、現地の役人の役職としての性格を奈良時代と平安時代後期とで対比させること。
“役職としての性格”とは何なのか、この表現だけでは漠然としてわかりにくい。しかし、問題文に「任命・設置の形態や、管轄の範囲・内容が異なるなど、役職の性格は大きく変化していた」と表現されているのだから、(a)任命・設置の形態、(b)管轄の範囲・内容、の2点について対比すればよいことがわかるだろう。
奈良時代の“郡司”
(a)任命・設置の形態
 国・郡・里制のもとで郡に設置→太政官が任命
(b)管轄の範囲・内容
 戸籍作成・徴税などの民政全般の実務を担当
平安時代後期の“郡司・郷司・保司”
(a)任命・設置の形態
 国内を新たに再編成して成立した郡・郷・保を単位に設置→国司が任命
(b)管轄の範囲・内容
 (開発の促進や)徴税を請け負う

なお、律令制下の郡司については、1988年度第1問も参照のこと。


(解答例)
A奈良時代には旧国造などの地方豪族が郡司に任命され,平安時代後期には新興の開発領主などが郡司・郷司・保司に任命された。
B奈良時代の郡司は,律令制下の郡を管轄対象として太政官から任命され,国司の指揮のもとで徴税・勧農など地方行政の実務を担当した。平安時代後期の郡司・郷司・保司は,開発領主の勢力範囲に従って公領を新たに再編制した郡・郷・保を管轄対象として国司から任命され,国司に対して開発・徴税を請負った。
【添削例】

≪最初の答案≫

A奈良時代には,在地豪族が郡司・里長などに任命され,平安時代後期になると開発領主らが郷司・郷長などに任命された。

B奈良時代,郡司は中央官庁によって任命され国司の下で郡の民政・裁判などの実務を行う役職であった。一方,平安後期の郡司・郷司・保司などは,国司によって任命され国衙領内の郡・郷・保などの区画において租税の徴収を請け負うものであった。

Bがボロボロです・・・。郡司や郷司などの理解が不十分で全然書けませんでした。

「Bがボロボロです」という割にはBの方がよく書けてます。唯一文句をつけるとすれば,最後の部分。「租税の徴収を請け負う」は「国司に対して徴税を請け負う」と明記する方が妥当です。それ以外は問題ありません。

それよりAがダメです。
そもそも,Bで奈良時代については「郡司」のみ,平安後期については「郡司・郷司・保司」を説明しているのに,なぜAでは奈良時代について「郡司・里長」,平安後期について「郷司・郷長」が指摘されているのですか?これでは,AとBが対応した設問であることが全く分かっていないということですから,Bが書けていても,全体として得点は0(ゼロ)です。設問どうしの関連をきちんと読みとってから解答するように!!

さて,具体的な内容についてですが,「郷長」がなぜ平安後期に出てくるのでしょうか?これは奈良時代,里が郷と改称された際に登場した役職です。平安後期に国司のもとで再編成された行政区画としての郷とは無関係です(後者の郷を対象に任じられた役職が「郷司」)。
もう一度,律令制下の地方行政制度と平安後期に国司のもとで再編成された地方行政制度とを教科書を使って,きちんと整理しておいてください。

≪書き直し≫

A奈良時代,旧国造などの在地豪族が郡司に任命されたが,平安後期には新興の開発領主などが郡司・郷司・保司に任命された。

B奈良時代の律令体制下では,郡司は中央官庁によって任命され,国司の下に置かれ,現地の行政司法などの実務を行なう役職であった。一方,律令の崩壊が進んだ平安後期には,郡司・郷司・保司は国司によって任命され,国衙内の郡・郷・保を管轄対象として国司に対して開発・徴税を請け負った。

AはOKです。

> B奈良時代の律令体制下では,郡司は中央官庁によって任命さ
> れ,国司の下に置かれ,現地の行政司法などの実務を行なう役職
> であった。一方,律令の崩壊が進んだ平安後期には,郡司・郷司
> ・保司は国司によって任命され,国衙内の郡・郷・保を管轄対象
> として国司に対して開発・徴税を請け負った。

うまく書けているのですが,やや字数が不足ぎみ(もっとも5行の指定の場合は4行以上書けば大丈夫ですが)。では,データとして何が不足しているのか。
リード文では「任命・設置の形態や管轄の範囲・内容が異なる」と述べられてあります。難解な表現ですので,なかなか了解しにくいところだとは思うのですが,奈良時代の郡司が任命・設置された,いいかえれば管轄した行政区画と,平安後期の郡司・郷司・保司のそれとが,どのように異なっているのかを考えてみるとよいです。後者については「国衙(→これは「国衙領」でないと不正確)内の郡・郷・保を管轄対象として」と書いているけれども,それが奈良時代の“郡”とどのように異なるのかが表現できていない。 その点をデータとして補えば,字数は十分足ります。

≪書き直し2回め≫

B奈良時代の律令体制下では,郡司は中央官庁によって任命され,国司の管理下で,郡内の行政司法などの実務を行なう役職であった。一方,律令の崩壊が進んだ平安時代後期には,郡司・郷司・保司は国司によって任命され,国衙領を再編した郡・郷・保を管轄対象として国司に対して開発・徴税を請け負う役職であった。

OK です。