年度 1998年
設問番号 第2問
テーマ 日明貿易/中世
(1)外交形式
明から冊封を受けた日本国王が明皇帝へ朝貢するという形式
(2)統制の手段
明が認めた日本国王が派遣した遣明船だけに貿易を限る。
遣明船に明が発給した勘合を義務づけ,入港地を寧波に限る。
B
設問の要求は,遣明船貿易の変化。条件は,変化のきっかけとなった事件や国内情勢にふれること。
まず表から時期区分をおこない,それぞれの時期の変化の背景を説明すればよい。
足利義満による開始
(a)1401〜1410年 幕府船だけ=幕府が独占
足利義持による中断→義教による再開(貿易の利益に着目)
(b)1433〜1453年 幕府船だけでなく大名船・寺社船が数多く参加
応仁の乱後
(c)1468〜1495年 幕府船だけでなく他の船も参加しているが,参加数が減少
幕府の勢力後退
(d)1511〜1523年 大内船と細川船だけ=実権をめぐって大内氏と細川氏が競合
寧波の乱後,大内氏が独占
(e)1540〜1549年 大内船だけ
≪最初の答案≫
A日本国王が明の皇帝に朝貢し,それに対する返礼という形式での朝貢貿易で,遣明船は倭寇と区別するために明交付の勘合を持参することを義務付けられた。また,入港地は寧波に限られた。 B初期は,幕府が貿易を独占しており,将軍義持は朝貢を嫌い,貿易を中断した。その後義教の時代に再開され,利益に着目した寺社・守護大名が積極的に貿易を行なった。幕府が衰退すると商人と結んだ大内・細川氏が台頭し寧波の乱で勝利した大内氏が独占した。 |
> A日本国王が明の皇帝に朝貢し,それに対する返礼という形式で
> の朝貢貿易で,遣明船は倭寇と区別するために明交付の勘合を持
> 参することを義務付けられた。また,入港地は寧波に限られた。
まず,「日本国王が...」のところですが,その地位が明から与えられたものである点も表現しておくこと。なにしろ,足利将軍は明皇帝に朝貢して初めて日本国王に封じられるのですから。
そして,
> また,入港地は寧波に限られた。
という箇所です。これだと,なぜ入港地が限定されていたのか,その背景がわかりません。あるいは,その背景を君は分かっていないと判断されてしまいます。
そういう判断が出て来てしまう一番の原因は,句点(。)の使い方と「また」という接続詞です。
倭寇と区別するために明交付の勘合を持参することを義務付けられ,また,入港地は寧波に限定された。
と書いてあると,倭寇と区別するための方法の1つとして入港地の限定があると判断しているのだなと分かりますが,「また」の前に句点(。)が付されているので,「入港地は寧波に限られた」という文章だけが浮き上がってしまい,単なるつけ足し情報になってしまいます。
なお,「また」という接続詞は非常に便利なのですが,“関連がわかってないからとりあえず「また」という接続詞を使ったんだな”との印象をうけがちなので,できる限り使わないように注意しましょう。
> B初期は,幕府が貿易を独占しており,将軍義持は朝貢を嫌い,
> 貿易を中断した。その後義教の時代に再開され,利益に着目した
> 寺社・守護大名が積極的に貿易を行なった。幕府が衰退すると商
> 人と結んだ大内・細川氏が台頭し寧波の乱で勝利した大内氏が独
> 占した。
最初の「初期は,幕府が貿易を独占しており,将軍義持は朝貢を嫌い,貿易を中断した」という箇所ですが,これだと“幕府が貿易を独占していた時期”と“義持による中断”との間に時間的な経過があるのかどうかが,非常につかみにくくなっています。「初期は,幕府が貿易を独占していたが」くらいの表現の方が適当です。
そして,「義教の時代に再開され」とあるのですが,なぜ義教の時代に幕府が貿易を再開したのか,その理由・背景を説明して欲しい。
さらに,その次に「利益に着目した寺社・守護大名が積極的に貿易を行なった」とあるのですが,これだと寺社や守護らが幕府の統制から離れて自由に貿易をやっていたようにも読めます。しかし,表を見る限り,(1453年を除いて)幕府船に追随する形で派遣されている−要するに幕府の統制の枠内で貿易に参加していた−のですから,そのあたりの微妙なニュアンスに気をつけるのがよいでしょう。なにしろ,この設問はそれほど難しいわけではないため,ちょっとしたところで点数の差が生じてしまいかねませんから。
≪書き直し≫
A明の冊封体制下で,日本国王と認められた将軍が朝貢するという貿易形式がとられた。また,勘合の所持の義務付け,寄港地の限定などの統制を行い,倭寇との区別をはかった。 B日明貿易初期には,貿易船は幕府船に限られたが,将軍義持による中断後,守護大名・寺社の要請から貿易は再開された。応仁の乱によって幕府・寺社が失墜すると細川氏・大内氏の貿易船が中心となり,貿易末期には寧波の乱に勝利した大内氏が貿易を独占した。 |
OK です。