申し訳ないが,
国立銀行条例の目的について,そのような話を聞いたことがないし,
欧米諸国が金本位制を採用したからといって日本から金銀が流出するという話も,
よくわからない。
いったいどこでそんな話を読んだんだ!?
なぜだと思う?
そもそも紙幣(たとえば日本銀行券)に国際的信用がなかったら困ることがあるんですが,
何でしょう?
さらに,
貨幣というのは他の商品の価値を表示する指標ですが,
なにでもってその役割を果たしているんでしょうか?
素材?
額面?
言っていることがよくわからんぞ。
「額面の価値が金・銀と同等でなくてはダメ」とはどういうことだ?
そもそも新貨条例では1円=金1.5グラムと規定されているから,
額面はそれに相当する量の金(もしくは銀)と同等だよ?
それ以下になることはないぞ。
ただ,兌換でない場合は,
1円紙幣が1円(=金1.5グラム)としては通用しないことがあるけどね。
それから,
金銀が流出したらなにが不都合なのだろうか?
たとえば,
井上準之助が金輸出解禁をやっているじゃないか。
これは金輸出(流出)を自由な状態にしたわけでしょ?
金輸出を自由な状態におくことは金本位制を正常に機能させることを意味していたんだけど(だから「自動調整機能」が働くと説明されるんだが−もっとも「失敗した」ということは「自動調整機能」が働いていないってことなんだがな−),
その理解はいいかな?
ということは,
明治初年であったとしても,
兌換制度を実現させて金本位制(もしくは銀本位制)を確立させれば,
一時的に金銀が流出したとしても「自動調整機能」により元に戻るから問題ないんではないか?
それはともかく,
「そもそも新貨条例では1円=金1.5グラムと規定されているから,額面はそれに相当する量の金(もしくは銀)と同等だよ?
それ以下になることはないぞ。
ただ,兌換でない場合は,
1円紙幣が1円(=金1.5グラム)としては通用しないことがあるけどね。」
と説明したことは納得してくれたんかな?
ここんところの理解が“兌換制度により紙幣の国際的信用を保証する”ことの理解にとっては不可欠なんだけど。
それから,
「貨幣というのは他の商品の価値を表示する指標ですが,
なにでもってその役割を果たしているんでしょうか?
素材?
額面?」
と尋ねたことがあるが,
どう思う?
二択問題だと思ったかもしれないが,
実はそうじゃないんですよ。
貨幣一般に限って言えば,
額面でもって他の商品の価値を表示することもあれば,
素材価値でもって他の商品の価値を表示することもあるんです。
じゃぁ,
額面で通用するのは,どのような範囲(地域)でしょう?
また,
素材価値でもって他の商品の価値を表示するというのは,
額面で通用する範囲を超えたときなんですが,
額面で通用する範囲を超えるって,どういうことでしょう?
この点を“紙幣の国際的信用”ということばと関連させて考えてみてください。
貨幣が額面で通用するのは,
基本的には「発行主体の信用の及ぶ範囲」なんですが,
まぁ「国内」と考えてくれればいい。
つまり,
紙幣がその額面(円)でもって貨幣としての機能を果たすのは「国内」だけのこと。
ところが,
国境を超えて他国に行ってしまうと,
額面では貨幣としての機能が果たせなくなるのです。
言い換えれば,
貿易決済という局面では“額面”では貨幣としての機能が果たせない(厳密には信用が低い)ということになります。
だから,
貿易決済という局面では,
国を問わず貨幣としての役割を果たすことのできる金や銀が決済手段として,
つまり貨幣として機能するのです。
ここでは貨幣は,
額面ではなく金や銀という素材の価値が他の商品の価値を示す指標なんです。
つまり,
「国内」では額面,「貿易」では素材が貨幣として機能している,
というわけです。
ここまで説明したら,
兌換制度が紙幣の国際的信用を保証するために必要だ,という話は理解できますか?
国内で金貨(もしくは銀貨)を一般に通用させればわざわざ兌換制度を設ける必要はないのですが,
国内で紙幣を通用させるという方針をとっていましたよね。
そして紙幣は,
素材は単なる紙切れですが額面の単位は円で,新貨条例によれば1円は金1.5グラム。
つまり,
通貨である円と金とは,金1.5グラム=1円という固定価格での交換が法律で規定されていたわけですが,
1円紙幣には金1.5グラムだけの素材価値がありますか?
ないですよね。
しかし,
国内で通用させるだけなら,
発行主体の信用がしっかりしていさえすれば,その紙幣はキチンと貨幣として機能してくれます。
ところが,
貿易ではなかなか難しい。
貿易(輸出入)には決済(支払い)が伴いますが,
貿易相手に円を単位とする紙幣で支払って通用すると思いますか?
1円紙幣がイギリスやアメリカなど諸外国で貨幣として機能するのなら全く問題ないですが,
そんなはずはないですよね?
また,
受け取った紙幣(額面は円)が常に固定価格でポンドやドルなど自国の紙幣(額面はポンドやドルなど)と交換できるのであれば問題ないのですが(交換価格が変動していたら,交換価格が下がったときには損する),
でも,
どうやれば交換価格を常に固定にしておけるんでしょうね?
−ところで,紙幣(額面は円)と紙幣(額面はポンドなど)との交換価格の相場を外国為替相場と呼ぶということを知っていますか?−
そこで登場するのが兌換制度(金本位制や銀本位制)です。
兌換制度とは,
1円紙幣を発行銀行に持ち込めばいつでも無制限に固定価格(金1.5グラム=1円)で金と交換することを保証する制度ですよね。
ということは,
日本の円が金兌換で,
イギリスのポンドやアメリカのドルが金兌換であれば,
それぞれの金との交換価格(平価と呼ぶ)にしたがって,
円とポンド,ドルなどとの交換価格も固定になりますよね?
これなら,
貿易決済(輸出入代金の支払い)もスムーズにいきます。
イギリスやアメリカなどの取引業者も紙幣(額面は円)での支払いを認めてくれますよね。
また,
紙幣(額面は円)での支払いを嫌われたとしても,
紙幣(額面は円)を発行銀行に持ち込んで金に兌換し,その金で支払えばOKでしょう(ちなみに新貨条例で貿易での銀の無制限通用を規定したのは,東アジアでは銀が貿易決済手段として通用していたから)。
−要するに金本位制とは,
貿易決済(輸出入代金の支払い)を(最終的に)金で行うという仕組みなわけで,
だからこそ金輸出入を自由な状態にしておくことが不可欠なわけです(金輸出を解禁すれば金本位制に復帰することになるというのはこういうこと)−。
つまり,
君が書いたように貿易を円滑に行うため,兌換制度が導入されようとしたわけですが,
だからといって「貨幣に国際的信用がないと、外国から高い値段で売られてしまう」という話ではありません。
補足:
国立銀行条例は,
兌換銀行券を発行し,それによって不換の政府紙幣を消却することも意図されていた。