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金本位制のもとでの貿易決済

メールでの質問への応答です(2002.02.16 & 02.21)。
> 金解禁について勉強していて分からないところがあります。
> 金輸出を解禁すると、人々はなぜ輸入品の代金を金で払おうとするのでしょうか。
> 円やドルにも金と全く同じ価値があるのなら、貨幣で払ってもいいと思うのですが。

まず確認しておきたいのは,
金本位制とは,
(1)紙幣の金兌換を義務づけるとともに(2)貿易の最終的な決済を金で行うものと規定した制度ですから,
金輸出解禁の状態(つまり正常な金本位制の状態)では,
人びとは輸出入品の代金を金で支払おうとするのです。

とはいえ,それは原則(あるいは原理)としての話。

もともと紙幣あるいは円やドル,ポンドといった通貨は,
その信用の及ぶ範囲(それぞれの通貨を発行している主体=発券銀行なり政府の信用の及ぶ範囲−とりあえずは国内ですね−)で貨幣として通用するのですが,
それぞれの通貨に対する国際的な信用が高まれば国際貿易における決済手段として使われていきます。
とりわけ19世紀後半〜20世紀初頭の金本位制の時代にあっては,
ポンド(イギリスの通貨)が国際貿易における決済手段として一般的に使われています。
(次第にドルの使われる割合が増えていきますが)

では,
円はどうかといえば,
金との兌換が保証され,金の日本国外への持出しの自由が認められている状態であってこそ国際的な信用が保たれているわけですが,
先行きに対する信用はどうだったか。
第1次世界大戦以前の日本経済はといえば,
慢性的な輸入超過に悩まされ,
日露戦争の戦費調達のために発行した外債の償還もあり,
結局,
外債を重ねて発行・募集することでなんとか金本位制(ならびに貨幣法にもとづく為替相場)を維持していました。
へたすると,
平価切下げ(金との兌換レートの引下げ)という事態もありえたかもしれません。
また,
1930年の金輸出解禁後の日本経済はといえば厳しい恐慌状態にあり,
さらに翌31年イギリスが金本位制から離脱したことで,
日本の金輸出再禁止,金本位制離脱も近いなどという予測がなされる状態でした。
こんな日本経済を目の前にして,
輸出入の決済手段として円を使うのは,
金本位制のもとであっても極めてリスクが高いですよね?
ですから,
円はなかなか国際的な決済手段としては機能してくれなかったわけです(もちろん,リスクが高くても円での支払いに応じてくれることもあったかもしれませんが)。

> また、どうして高橋是清が金輸出を再禁止したあとに、円安ドル高が進んだので
> しょうか。

金輸出再禁止(ならびに金兌換停止)により日本経済が金本位制から離脱してしまうと,
貿易決済を円や他国通貨(ポンドやドル)で行うしかありません。
そのうえ,
日本経済は慢性的な輸入超過です(輸出超過だったのは幕末,松方財政期,第一次大戦期だけ)。
となれば,
円売り・ドル(ポンド)買いの状態が慢性化するわけで,
当然,
為替相場は円安・ドル高が進行していきます。
なお,
高橋蔵相が当初,そうした円安の進行を容認・放置したこともあり(低為替政策),
円為替相場はいっきに下落していくのです。
[2002.02.16]


先日,
金解禁に関する返答メールを送り,
そのなかで金本位制のもとでもポンドやドルが国際的な決済手段として使われると書きましたが,
それについて肝腎な話を書くのを忘れていました。
以下の説明を追加しておきます。

ポンドなどが国際的な決済手段として使われる場合,
輸入代金を決済するためには,
(1)ポンド(日本にとっては外貨)を蓄えておく,
(2)円を売ってポンドを調達する(こうした外国為替を担うために横浜正金銀行が存在していた),
といった方法をとることが不可欠です。
(1)はともかく,
(2)の方法をとるとすれば(こちらが一般的でしょう),
入超が継続しているときには円為替相場が下落していきます。
つまり,
金本位制のもとでも外国為替相場が変動することがありえるのですが,
その変動はある限度内に収まっているのです(それゆえ,金本位制のもとでは外国為替相場は“安定”する)。

では,
その“限度”はどのように決まるのか。
円安が進むとポンド(外貨)を調達するのにそれだけ多くの円が必要になりますが,
それが金(金貨や金地金)の輸送費を上回るほどになったら,
上記の(2)の方法ではなく,
金による決済という方法が採られます。
こうして外国為替相場の変動が一定限度内におさまるようになっているのです。

このように,
金本位制(金兌換+金輸出入の自由)のもとでは,
ポンドのような特定国の通貨が貿易の決済手段として利用されながらも,
最終的な決済手段としては金(金貨や金地金)が用いられていたというわけです。
[2002.02.21]