年度 2007年
設問番号 第2問
次の文章は,「財界の大御所」渋沢栄一の1890年12月の講演「本邦工業の現状」であるが,それを読んで下記の問いに答えなさい。(問1から問3まですべてで400字以内)
(1)先に紡績業は我国に利あるべしと観励せしに,幾十の紡績会社を起せり。一般の事皆然り。(2)工業の勃興したるは工業の盛大を望みて勃興したるものにあらずして主としての株式の売買を目的としたるものなり。斯る会社の起るは真実工業家は甚だ迷惑に思ふなり。真の工業家は甚だ之を悪み,之を憂ふる者なり。
昨年までは甚だ盛況を装ひたる工業社会が,今年の春より今日まで大なる困難を感じ,(3)実際惨状に陥りたるは,第一に会社勘定に困りたること,第二に輸出品少なくして輸入品の多かりしこと,第三に株主が会社の利益を外にして株式の利益に熱中すること,其主因たらずんばあらず。然れども,此等の事情は早晩消滅すべきものなり。果たして然らば工業は今後利益あるや否を熟考すること最も肝要なりとす。私は此業を為し遂げんと初めより固く信じたり。
(渋沢青淵記念財団竜門社編『渋沢栄一伝記資料』別巻第5,1968年)
問1 下線部(1)の「紡績会社」の設立について,渋沢栄一が関係した事例として,1880年代に日本最新・最大の1万錘紡績として成功した会社名を挙げなさい。また紡績業が産業構造と貿易構造にもたらした革命的意義−いわゆる産業革命−について説明しなさい。
問2 下線部(2)の1880年代の「工業の勃興」とは何と呼ばれるか,また「工業の勃興」を促した「株式」に関連して,日本最初の「株式会社」といわれる,渋沢栄一によって設立された金融機関名を挙げなさい。それをふまえ明治期に「株式」所有者となり,会社を設立し,資金を投下した主な社会階層を3つ挙げてその役割を説明しなさい。
問3 下線部(3)の工業社会の「惨状」とは何を指すのか,またなぜ文中の3点が「惨状」の「主因」なのか説明しなさい。